咎人守りの森

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咎人守りの森

 薄暗い森には、かなり痩せこけた老婆がいる。  なんでも、罪人を集って暮らしているらしい。  そのせいで、街には罪がなかった。  私は罪のない街で暮らしていた。  何もしてもよい。  道に迷うこともない。  何故なら、いつも光が照っていたからだ。  昼間の公園でいつもの文庫本を読んでいると、隣の友人の須藤がこう言った。 「平和だねー」  須藤は読書をした時はないというが、それは嘘だろう。  男友達は須藤だけだが、須藤は体育会系だが頭もいいからだ。  きっと、何かの本は読んでいる。 「でも、森の老婆が今にも死にそうだって噂を聞いたんだよ。誰かが確かに言っていたんだ。もう長くないってさ。なんだか気味が悪いね」 「ふーん。でも、ただの噂よね。でも、もし本当なら罪人はどうなるのかな?」  その夜は自室のベットで寝ていても、まったく落ち着かなかった。薄気味の悪い得体の知れない気持ちが私を包み込んでいた。  寝返りを繰り返しては考えに考えていた。須藤の言ったことは本当だろうか? それとも単なる噂だろうか? これからこの街はどうなるのか? 罪というものが入ってきたら、どうなるのか?  私は考えるのをやめて、意を決して森の老婆へ会うことにした。  両親が寝静まっているので、家の玄関を静かに開け夜の小道を歩いていると、森へ向かう罪人に運悪く出くわしてしまった。  私は下を向いて歩きだした。  小道で罪人と目を合わせないように隣同士で歩いていた。 「お嬢さん。どうしてか、おれから目を逸らすんだね。罪もそう。罪って身近にあって、誰でもしているのに。目を逸らしてばかりじゃダメなんだ」  罪人は、さも当然といった顔をしているらしかった。  あるいは、薄笑いをしているのだろうか?  しばらく、罪人と森へと歩いた。 「罪ってなんだろうね。単にしてはいけないことだけど、やっぱりしてはいけないことなんだね」  トボトボと歩く罪人の顔を、思い切って見てみると私は悲鳴を上げた。  傷だらけだった。  その顔は。  でも、悪人ではなくて立派な軍人の顔だった。  軍服も着ていて、私は罪から逃れられないことも知った。
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