7人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
咎人守りの森
薄暗い森には、かなり痩せこけた老婆がいる。
なんでも、罪人を集って暮らしているらしい。
そのせいで、街には罪がなかった。
私は罪のない街で暮らしていた。
何もしてもよい。
道に迷うこともない。
何故なら、いつも光が照っていたからだ。
昼間の公園でいつもの文庫本を読んでいると、隣の友人の須藤がこう言った。
「平和だねー」
須藤は読書をした時はないというが、それは嘘だろう。
男友達は須藤だけだが、須藤は体育会系だが頭もいいからだ。
きっと、何かの本は読んでいる。
「でも、森の老婆が今にも死にそうだって噂を聞いたんだよ。誰かが確かに言っていたんだ。もう長くないってさ。なんだか気味が悪いね」
「ふーん。でも、ただの噂よね。でも、もし本当なら罪人はどうなるのかな?」
その夜は自室のベットで寝ていても、まったく落ち着かなかった。薄気味の悪い得体の知れない気持ちが私を包み込んでいた。
寝返りを繰り返しては考えに考えていた。須藤の言ったことは本当だろうか? それとも単なる噂だろうか? これからこの街はどうなるのか? 罪というものが入ってきたら、どうなるのか?
私は考えるのをやめて、意を決して森の老婆へ会うことにした。
両親が寝静まっているので、家の玄関を静かに開け夜の小道を歩いていると、森へ向かう罪人に運悪く出くわしてしまった。
私は下を向いて歩きだした。
小道で罪人と目を合わせないように隣同士で歩いていた。
「お嬢さん。どうしてか、おれから目を逸らすんだね。罪もそう。罪って身近にあって、誰でもしているのに。目を逸らしてばかりじゃダメなんだ」
罪人は、さも当然といった顔をしているらしかった。
あるいは、薄笑いをしているのだろうか?
しばらく、罪人と森へと歩いた。
「罪ってなんだろうね。単にしてはいけないことだけど、やっぱりしてはいけないことなんだね」
トボトボと歩く罪人の顔を、思い切って見てみると私は悲鳴を上げた。
傷だらけだった。
その顔は。
でも、悪人ではなくて立派な軍人の顔だった。
軍服も着ていて、私は罪から逃れられないことも知った。
最初のコメントを投稿しよう!