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「本当に突然すぎて、今でもよく分からないんだけど・・・」
気がついたら青年は、人ごみの中でボーッと立ち尽くしていた、行き交う人々が一体何処に向かうのか、青年にはさっぱり分からなかった。
辺りを見渡しても、靄がかかった様に何も見えない、青年が真下を見ると、そこには無機質なコンクリートがあるだけ、息苦しくなった青年は制服のネクタイを緩め、スマホをリュックから取り出そうと、肩に手を当てる。
しかし、いつも背中に背負っているはずのリュックが無い事に気づいた青年は、慌てて胸ポケットも探ったが、ポケットの中にもスマホどころか塵一つ入っていなかった。
青年は頭を抱えながら小声で「まいったなー・・・。」と言う、誰かに電話もできなければ、メッセージも送れない、今自分が何処にいるのかも全く分からない。
辺りを散策したいが、人ごみにもまれてうまく歩けない、時々自分の足を踏んで行く人が何人かいたが、全員が謝る事なくそのまま何処かに行ってしまう。青年の名は三上 集(さんじょう しゅう)、高校二年生、胸ポケットにいつも入れてある生徒手帳も無いので、途方に暮れてしまう、警察に道を聞きたくても、辺りに交番なんて無いし、警察官を見かけても、週の声に気づかないのか姿を消してしまう。
普通困っている人を相手に、警察官がそんな態度をすればイライラして当然のはず、だがシュウは、イライラするよりも先に、今自分が居るこの異様な空間に疑問を持つ。
先程の警察官もだが、道を行き交う人々から正気を感じられない、皆が同じ様に、ボーッと上の空状態で、ただひたすら何処かに向かっているのだ。
隣を横切った女子高生の肩を掴んでも、女子高生は声一つ上げずにそのまま何処かに向かってしまう、普通女子高生なら知らない人に肩を掴まれれば多少は反応する。
人ごみの勢いは徐々に強くなり、シュウの方はすれ違う人とぶつかり続ける、その勢いに押されるシュウは、自分が意図しない方向にずんずんと進んでいた。
引き返そうとしても、後ろに下がる事すらできない、立ち止まる事すらできない、慌てたシュウは、とにかく今いる場所がが一体何処なのか確かめる為、目を凝らしながら辺りをもう一度見た。
だが、更にシュウは妙な事に気付いてしまう、今自分が立っている地面は、コンクリートでもなければ草むらでもない、足元までもが靄に包まれているのだ。
足を地面に踏みしめた感触も、今までに感じた事の無い妙な心地だった、柔らかくもなければ、硬くもない、地面を踏みしめた感覚すら感じられなかった。
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