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「今思うと 自分はもっと別の事を大切にすべきだったんだ」
目を覚ましたシュウは、病院のベッドの上で、包帯でグルグル巻きになった状態だった、そして彼の隣には、引き取り親の父と母が、涙を浮かべて満面の笑みを見せてくれた。
引き取り親は、シュウが小学校五年生の夏休み直前、彼を引き取ってくれた夫婦、夫婦は数年前に結婚したのだが、その妻は幼少期の病気が原因で、子供を産めない体だった。
そこで、里親情報を集めていた夫がシュウの暮らしていた施設が家の近くにある事を知り、早速見学に行った夫婦、年下の面倒をしっかり見て、施設の仕事も手伝うシュウ。
シュウを気に入った夫婦はすぐに引き取り、愛情を込めて大切に育ててくれた、彼にとっては恩人でもあり、血は繋がっていないが大切な家族なのだ。
育ての両親に話を聞くと、シュウはバイト終わり、雨が降り急いで家に帰っている最中車に轢かれてしまい、数日間意識が戻らなかった、医者からは、目を覚ますのはいつになるのか見当がつかないと言われたそうだが、育ての両親は焦る事なく、ずっと待ち続けていた。
そしてその願いが通じたのか、シュウは目を覚ます事ができたのだ、すぐに父母の祖父母も病院に来て、大泣きするほどシュウの帰還を喜んだ。
それからのシュウの回復ぶりは、医者達の目を疑わせた、懸命にリハビリに励む中、高校のクラスメイトも学校の先生もお見舞いに来てくれて、授業の遅れは先生達が個別授業でカバーしてくれた。
そして事故に遭ってから一年と経たないうちに、シュウの体は若干の後遺症を残しながらも、退院までこぎつけたのだ、入院している最中、バイト仲間や店長までも見舞いに来てくれて、シュウの入院生活は退屈しなかった。
退院したシュウは、意識が無かった時に体験した事を、育ての両親や担任の先生に話した、その話を聞いて大粒の涙をこぼしていた父母の祖父母は、シュウにこんな事を言った。
「きっと貴方は『あの世』に連れて行かれそうになっていたのよ、でも、貴方
のお母さんが助けてくれたのね。」
その言葉に確証は無かったが、誰もが納得していた、正気を感じられない人々の群れ、見覚えの無い場所に突然放り出され、既に亡くなっているはずの母が、意識不明状態のシュウが見ていた夢の中に現れ、人ごみからシュウを救い出したと同時に、彼は目を覚ました。
不思議なくらい話の筋が通っていた、そう考えると、彼の母が最後に息子に向かって言った言葉、あれは、バイトと勉強に必死になりすぎていた息子への、忠告だったのだ。
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