相棒のその先に

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「藤堂、俺と付き合って下さい」 「うん、よろしくお願いします」 「本当に、いいのか?」  気付けば、こくりとそう頷いていた。本当はまだ混乱の中に居たから、ちゃんと自分の気持ちを考えてみるべきなのだろうとは思う。男同士なのにとか、雰囲気に飲まれただけじゃないのかとか、一度冷静になって考えるべきなのだとわかってはいる。  けれどいくら考えたところで、きっとこの心地よさは手放せない。それだけは確信していたから、士朗はいつもの自分らしく思ったまま行動してしまうことに決めた。だっていつも、それで後悔した事なんて無い。 「俺の事は、士朗って呼んでよ。名字で呼ばれると距離が縮んでない気がする」 「『ありす』ちゃんのが、いいんじゃないのか?」 「何でだよ!」  反射的に叫んだ士朗に向けられる雪哉の笑顔がくすぐったい。だってそれは、見たこともない位に幸せそうだったから。雪哉がこんな風に蕩けた笑顔を作れるなんて知らなかった。きっとこれは士朗だけの物だ、そう思うと士朗もこの上なく幸せになれたから、自分の判断は間違っていない。 「どっちも好きな人の名前だから、大事にしたいんだよ」 「『ありす』は『スノー』さんが呼んでくれるから、いい。雪哉はちゃんと俺の名前を呼んでよ」 「……わかった。士朗、好きだよ」 「何か、照れるな」 「お前が呼べって言ったんだろ」  ぐっと腰を抱き寄せられて、身体がこれ以上無いくらいに密着する。雪哉の手が頬に添えられて少しだけ上を向かされた所で、ふいに士朗はここに何をしに来たのかを思い出した。 「って、そうだ。イベント! まだ途中!」 「お前……この状況で、それ思い出すのか……」 「雪哉が『ありす』ちゃんなんて、呼ぶからだろ」 「はぁ……まぁいいさ。じっくりゆっくり……な。でも確実に落としてやるから、覚悟しろよ」 「え、何だって?」 「なんでもない。上位狙うんだろ、今日中にクリアして明日は周回するぞ」 「おぅ!」  笑顔で応えた士朗の唇に再び雪哉からのちゅっと触れるだけのキスが落ちてきて、気恥ずかしさから赤くなりながら慌てて雪哉を追しのけるが嫌なわけじゃない。むしろ嬉しい気持ちが大きくて、隠し切れていなかったのか顔を赤くしながらコントローラーを握る士朗を見つめる雪哉の優しい視線が、何だか居たたまれない。  再開したゲーム内の『スノー』は、いつも以上に何度も『ありす』を呼ぶ。ご丁寧にハートのスタンプ付きで、所構わず。 「用もないのに何回呼ぶんだよ!」 「『スノー』なら『ありす』ちゃんを呼んでいいんだろ?」 「さっきまでと、性格が違いすぎる……」 「友達と好きな子への態度が違うのは、当たり前だ」 「~~~~っ、ずるいぞ!」 「本当の事だ」  雪哉はそう言って、そのままゲーム内でも外でも「好き」を連発された士朗は、イベントが終わるまでずっと甘くなりすぎた雪哉によって翻弄され続けた。  けれどそれを心地よく感じてしまうのだから、士朗も相当なのだけれど。  好き攻撃を受けながら走りきったイベントは無事に上位入賞を果たし、レアアイテムを手に入れた『ありす』は最高の相棒である『スノー』へ、最大級の「大好き」をお返しした。もちろん、現実世界の恋人へ最高の笑顔と共に。 END
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