ありすとスノーの邂逅

2/5
前へ
/21ページ
次へ
「藤堂……もしかして、お前が『ありす』ちゃん?」 「もしかしなくても、そう。悪かったな、可愛い女の子じゃなくて……やっぱりお前が『スノー』さんだったんだな」 「マジか……」 「まぁ、座れよ」  雪哉にしては珍しい言葉遣いが飛び出したところで、目の前にある椅子を勧める。  再び注文を取りに来たウェイトレスの姿に「コーヒーと紅茶、どっち派?」と雪哉に確かめてから、士朗は紅茶を二つ注文した。  実はこの店の売りは紅茶だったので、恐らく『ありす』が紅茶派だと言う話をしたのを覚えてくれていたか、雪哉も同じ好みなのだろうと予想していたが、どうやら合っていたようだ。  本当は色んなフレーバーティを試してみたい所だったが、多分それどころではないだろうから無難に店の一押しブレンド茶にしておく。  机の上に置かれた可愛いうさぎの引取先がなくなったな……と残念に思いながら、半分は予想通りでもあったので士朗は比較的冷静にまだ状況を受け入れられていない雪哉の様子を伺うことが出来た。  雪哉は結局テーブルに紅茶が二つ並び、それを口に含むまで一言も言葉を発しなかったから、見た目は変わらないが余程驚いているのだと思う。 「いつから、気づいてたんだ?」 「最近だよ。この間お前に押しつけられた、このカードのおかげ。それに今日会うまでは半信半疑だった」  恐る恐るという雰囲気でぼそりと呟いた雪哉の言葉に応えて、持ってきていたレアな非売品カードを机に出してそっと「返す」と示す様に雪哉の方に滑らせる。 「あぁ、そうか……アバターが印刷されてるから……」 「この間、拾った時に『ファンサガ』の報酬カードだって気付いてさ。ただ俺もそのゲームやってるから、話したいなって思って声を掛けたんだけど……お前全力で拒否するし、カード押し付けてきて「近付くな」とか言うし。印刷されてるアバター見て驚いたよ」 「お前はその後も、全然言うこと聞いてくれないどころか、滅茶苦茶声掛けて来たけどな……」 「だって俺はお前と友達になりたかったんだもん。別に『スノー』さんかもしれないからと思ったからじゃないよ」 「そう、なのか……?」 「あ、でも『スノー』さんが女の子じゃなかったのはちょっと残念かな。俺『スノー』さんの事、普通に好きだったし」 「それは、俺のセリフだ。あの可愛い『ありす』ちゃんがお前とか、正直まだ信じられん」 「おぉ、可愛いと思ってくれてたんだ! ありがとう。証拠、見る?」 「いや、それがある時点で疑いようはないからいい。気持ちの問題だ」  今までチャットしていたアプリのアイコンを見せようかとスマホを取り出すが、それはすぐに雪哉によって拒否された。そして視線で示されたウサギのぬいぐるみを見て「確かに」と頷く。  士朗が雪哉が『スノー』かもしれないと動揺して敏之に相談したのと同じように、雪哉も突然カミングアウトされた『ありす』の正体に戸惑っているのだろう。  それはそうだ。オンラインゲームで仲良くしている相手が、リアルの世界でこんなにも近くに居るとは普通思わない。しかも雪哉からすれば女子達曰く「近付くなオーラ」を日々発しているというのに、それをもろともせず踏み込んでくる苦手なタイプの士朗と、組んで冒険していたわけだから、すぐに納得できるものではないのだろう。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

77人が本棚に入れています
本棚に追加