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「そういえば、酒井って下の名前はなんて言うんだ?」
「どうして、急にそんなことを聞く」
「せっかくオンラインでもリアルでも友達になれたんだから、下の名前で呼びたいなぁって思って」
「俺はいつ、お前と友達に……?」
「いいじゃん、『ありす』と『スノー』さんは両思いだった訳だろ」
「女の子だと思ってたからな」
「細かいこと気にすんなって」
「細かいか……? まぁいい、雪哉だ」
教えろ教えろと語るわくわくした士朗の瞳に勝てなかったのか、雪哉が大きなため息と共に下の名前を教えてくれた。「雪哉、雪哉か……」と数回繰り返した後、ふと士朗が気付いて手をぽんっと打つ。
「あ、それで『スノー』なんだ!」
「単純で悪かったな」
「いや、俺も似たようなもんだし」
「……? お前の名前は『ありす』とは被ってないだろ」
「うさみみだろ?」
「いや、それを言うならアリスは追いかけ……」
「あー、そのツッコミはもう敏之にやられたから! 自分の適当な知識に地味に凹むから言わないで」
「敏之って、いつもお前とつるんでる奴?」
「そ、幼馴染なんだ。敏之も『ファンサガ』やってるんだぜ。ソロがいいって全然付き合ってくれないけど」
「……そいつとの方が、まだ気が合いそうだ」
「ちょ、酷い! 俺のがずっと『スノー』さんと一緒にいたのに! いつも一緒に冒険出来るの楽しいよって言ってくれるのに!」
「お前に言ってたのかと思うと、複雑だから止めろ」
拗ねる士朗の姿に冷静に手で制しながらストップをかけ、そして視線がウサギのぬいぐるみと一本の薔薇に注がれた後、雪哉がくっくっと笑い出した。
恐らく一周回ってこの状況が可笑しくなってきたんだと思う。かく言う士朗も、雪哉と知らず『スノー』にくっつき回って冒険していた頃を思い出して、段々楽しくなってきた。
「酒井って、笑うとそう言う顔もするんだ。絶対笑ってたほうがいいよ、俺はその方が好き」
「好きって……現実の俺は優しい『スノー』じゃないんだから、別に俺が笑ってても怒ってても関係ないだろ」
「関係あるよ。俺は『スノー』さんじゃなくてお前と仲良くしたいって最初から言ってんじゃん。それに『スノー』さんの正体が酒井なら尚更、絶対話し合うと思うし!」
「まぁ、それは……否定はしない」
「だろ? だから俺と友達になろ。いいよな、雪哉!」
「お前、本当に距離の詰め方ハンパないな」
「よく言われる。でも、好きを好きって言って何が悪いの?」
「『ありす』に対しても思ってたけど、お前のそういう所、尊敬するわ……」
「ありがとう」
「褒めたわけじゃ、ないんだけどな」
呆れた様な表情を向ける雪哉に笑顔を向けると、どうやら諦めたのか「もういい」とため息と共にカップを持ち上げ紅茶を含んでいた。
それから二人でゲームの話を始める出してみると、思っていた以上に盛り上がる。やはり、『ありす』と『スノー』の相性が良いと言うことは、士朗と雪哉の相性も良かったという事だろう。
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