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あっという間に時間は過ぎ、二人のカップから紅茶が消える頃には、すっかり打ち解けていた。
それはこの一週間の士朗の突撃攻撃という下積みがあったからこそという所もあるかもしれないが、やはり好きな事を好きな人と話す時間は何事にも変えがたいと言わざるを得ない。これまで士朗が一方的に声を掛ける挨拶程度の交流しかなかった事が、信じられない位に波長があった。
ずっと話していられる、そう思っていたが時間は無情にも流れて行き、流石に長居しすぎたと感じる程には窓の外にある空の色が変わり始めていた。
それに、今日の夕方から始まるイベントを一緒にプレイしようと約束している。約束している相手は目の前に居るのだけれど、一緒に冒険に行くのを楽しみにしていたから、イベント開始までに帰らなければならない。
このまま話していたいけど、ゲーマー気質故にゲームもしたいのだ。アプリでは簡単なアイテム収集クエストくらいしか出来ないのが、残念でならない。
「……そろそろ、出よっか」
「そうだな、帰らないとイベントに間に合わないし」
「俺もそれに気付いたとこ!」
「やっぱり」
くすくすと笑う雪哉は、この数時間で見慣れたものになった。つい五日前に「近付くな」と冷たい視線で告げて来た相手とはとても思えなくて、士朗も嬉しくなって笑顔を返す。
士朗と雪哉の家の駅は違うものの、同じ高校に通っているだけ会って沿線は一緒だし、最寄り駅はそこまで離れてもいない。ぐずぐずとここで時間稼ぎをしなくても、まだもう少しは一緒に居られる。
席を立ち上がろうとして、ふとテーブルの上に鎮座しているウサギのぬいぐるみに気付いた。『スノー』が女の子だったらプレゼントするつもりだったそれをどうしたものかと思案し、士朗はちょっと乱暴にむんずっとそれを掴んでそっと雪哉に押しつける事にした。持って帰っても持て余す未来しか見えなかったから。
だからと言って、雪哉だってこんな可愛らしいウサギのぬいぐるみを貰っても同じように持て余すだろう。しかも、同級生の男からのプレゼントなんて自分だったら絶対に困惑しかない。
「これ、『スノー』さんに『ありす』からプレゼント」
「……え?」
「返品は受け付けない!」
「ありがとう」
「え? マジで引き取ってくれるの?」
「こんなものいらない」と言われるのを覚悟していたのに、雪哉は士朗が思っていたのとは違う反応をした。照れた様な、嬉しそうな、そんな表情で押しつけられたウサギのぬいぐるみを、そのまま受け取ってくれたのだ。
「『ありす』ちゃんからのプレゼントだろ、嬉しいよ。代わりに『スノー』からはコレ、受け取ってください」
ウサギのぬいぐるみの横に置かれていた一本の薔薇を手渡してくる雪哉は、登場時と同じようにいやそれ以上に気障だったのに、さまになって見える。同じ男子高校生とは思えなくて、悔しい。
流れるように渡すから流れるように受け取ってしまったけれど、よくよく考えると男が男にぬいぐるみを渡すのと競えるくらい、男が男に薔薇を貰うという図式もなかなかに変だ。
結局、お互いがお互い行き場を見失ったプレゼントを押し付あっただけなのかもしれないけれど、自分で買ったものを自分で持ち帰るよりも、まだ交換した方がマシかもしれないとも思う。
(それに、雪哉が言ってたみたいに『スノー』さんからのプレゼントだと思えば、確かにちょっと嬉しい……かもしれない)
「……ありがと」
薔薇を手にはにかむような笑顔を向けると、雪哉の手が士朗の頭をぽんぽんっと撫でた。いつも『スノー』が『ありす』にするようにな動作は慣れ親しんだものだったけれど、士朗として経験した事はもちろんなく、男が男にする動作じゃないそれに呆然とする。
士朗が戸惑ったように瞳を揺らして見つめたからか、雪哉も自分がした行動に気付いたらしい。
「あ、っと……悪い」
「いや、いいよ。『スノー』さんが『ありす』によくやってくれるけど、お前のそれって癖なんだな」
「誰にでもってわけじゃ、ないけどな」
「ん? 何か言った?」
「いや、もう行こうか」
「だな、なんか俺達注目を集めちゃってる気がするし……早々に立ち去ろう!」
「異議なしだ」
席を立ちながらプレゼント交換をする男二人は、店内で目立っていた。そりゃそうだ。士朗だって自分が当事者じゃなければ、思わず視線を向ける。
これ以上目立たないように、そそくさと会計を済ませて店を出た。
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