ありすとスノーの邂逅

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「俺、この次の駅」 「そうなんだ……」  電車の中でも話題は尽きず、車内アナウンスが次の駅名を告げた時に雪哉がそう言った事に少しだけ寂しさを感じる。これから一緒に冒険に行くために別れるというのに、寂しいもなにもあったものではないのだけれど、今日一日で随分と士朗は雪哉の隣に居ることに安心感を覚えてしまっていたらしい。  それは『ありす』が『スノー』と一緒に行動する時の、信頼関係による安心と同じような気もしたが、戦闘があるわけでもなく咄嗟の判断が特に必要がない状態なので、少し違う気もする。 (なんだろう、ずっと一緒に居ても変に疲れたりしないって言うか……)  士朗には友人が多い方だという自覚はある。みんなと一緒に居るのも楽しいし、雪哉が唯一という訳ではないので執着とは違うはずだ。  けれど一緒に居るのが落ち着くという感情を抱く相手は今まで居なかった。唯一、敏之だけは気を遣う必要がないから楽だと感じるけれど、ずっと一緒に居たいと言うのとはちょっと違う気がする。 「どうした?」 「俺、雪哉が女の子だったら、彼氏に立候補してたかも」 「急に何だ」 「なんか、居心地いいんだもん。離れると寂しい~、みたいなさ。こういうの今までなかったからちょっと驚いてる」 「俺は、お前が男でも好きだし、離れるのは寂しいよ」 「……え?」 「……友達として、な」 「な、なんだ……そっか、そうだよな。俺も雪哉の事、大好きだよ」 「うん、嬉しい」  友達として、と言っているのに、なんだかその会話にむずむずする。笑う雪哉の視線が優しすぎるからだろうか。今まで冷たい目しか向けてくれなかった相手が急にデレた効果かもしれない。 (なんだろう、この感じ……)  昨晩、雪哉と『スノー』さんが付き合っているという可能性を考えた時のもやもやと繋がっているような気持ちがする。実際のところ二人は同一人物だったし、その二人共が士朗を好きだと言ってくれてはいるのだけれど、士朗が欲しい好きとは違う様な、はっきりとしない気持ちが胸の奥でくすぶっている感じ。 「この後ゲームするのは楽しみだけど、何かまだ喋ってたいな」 「……お前って『ファンサガ』は何でプレイしてる? ゲーム機? それともパソコン?」 「ゲーム機だけど、それがどうかした?」 「ならセーブデータ抜いて、うちに来ないか? 俺どっちのバージョンも持ってるからパソコンでもプレイ出来るし、ゲーム機の方を貸せるよ。泊まり大丈夫だから、今日と明日うちで一緒にプレイとか……どう?」 「マジで!? 行く!」  即答する士朗に雪哉は「前のめり過ぎ」と笑うが、大好きな『スノー』と隣で一緒にプレイ出来る日が来るなんて思っても居なかったから、本当に飛び跳ねるほど嬉しかった。もちろん、雪哉と一緒にいられるのもそれ以上に嬉しい。 「じゃあ、一時間後に次の駅の改札前で待ち合せで大丈夫そうか?」 「おぅ、俺はこの先二つ目の駅だから、帰ってすぐデータ取って引き返してくる!」 「そんなに急がなくても大丈夫だと思うけど」 「だってもうすぐイベント始まるし、早く一緒にプレイしたい」 「わかった、じゃあ早めに待ってる」 「うん、じゃあまた後で」  まるで会話に合わせる様に電車の扉が開き、雪哉はホームへと降りて行く。すぐさま動き出した電車の中から手を振ると、くすりと笑った雪哉が手を振り返してくれた。 「何だあいつ、可愛すぎるだろ……」  にこにこと笑う士朗の姿が電車と共に消え去ったホームで、雪哉が顔を赤くして口を押さえて呻くように呟いた言葉を、聞きとがめる人は居なかった。
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