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楽しい時間はあっという間に
「お邪魔しまぁす……」
一般家庭の一軒家。そう言い表して問題ないだろう家の雪哉の部屋に通された士朗は、物珍しそうに部屋をきょろきょろと見回した。
優等生の雪哉らしく整理整頓された棚には難しそうな本や参考書が沢山並んでいたが、それに紛れるように『ファンサガ』関連の本が数冊並べられていて、少しだけほっとする。
シングルベッドの他にはテレビと繋がったゲーム機、勉強机の上にスペックの高そうな自作っぽいパソコンが置かれている。そのパソコンの傍にはさっき士朗があげたうさぎのぬいぐるみがちょこんと乗っていて、少しだけ気恥ずかしさもあった。
雪哉は一般的な広さだろうと言っていたから、士朗の部屋よりも広く見えるのは、間取りのせいではなくてごちゃごちゃ感のない無駄なスペースを作らない配置のせいかもしれない。
「冷蔵庫の中にコレしかなかったけど、大丈夫か?」
折りたたみ式の小さなテーブルにマグカップが一つ置かれ、ペットボトルに入ったオレンジジュースが注がれる。恐らく雪哉用のものだろうもう一つのマグカップにも同じように注いで、パソコンが乗っている勉強机の上に持ち込まれた。
「さんきゅ! 俺もお菓子買ってきた」
がさがさとコンビニの袋から数種類のスナック菓子やらチョコレートやらをテーブルに並べる。
「ありがとう。じゃあ、さっそくやるか」
「おう!」
士朗がパッケージから取り出したお菓子を差し出すと、それをひょいと咥えながらゲーム機とパソコンの電源を付けてくれる。その雪哉の後ろ姿に勢いよく頷くと、また笑われた。
「お前、本当にいつも前のめりだな」
「楽しみなんだから、仕方ないだろ。ほら、笑ってないで早く!」
「はいはい。じゃあ、これコントローラー」
「よっしゃ」
士朗は家から持ち出してきたセーブデータをゲーム機に差し込む。タイトル画面が出現した頃には、雪哉もパソコン版のログインを終えていた。
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