楽しい時間はあっという間に

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「一旦休憩しないか? そろそろ夕飯にしよう」 「賛成! もう八時過ぎてる……腹が減るわけだ」 「生姜焼きでいいか?」 「俺、生姜焼き大好き! って、もしかして雪哉が作んの?」 「あぁ、今日は親も居ないし」 「すっげぇ!」 「そんなに期待されても、普通のしか作れないぞ」 「俺も何か手伝った方が良い?」 「いや、大丈夫だ。しばらく待ってろ」 「おぅ、よろしくお願いしまーす」  パタンとドアが閉じられるまで手を振って見送って、士朗は再び雪哉の部屋をじっくり眺めた。家主がいない間になんとやらだ。  ごそごそ家捜しをしてみるけれど定番の隠し場所にエッチな本は見当たらなくて、雪哉の涼しげな顔が浮かんで少し悔しく思いながら、仕方なく『ファンサガ』関連の書籍が並べられている辺りを監察していたら、その周辺には一周年のレアカードどころではないお宝アイテムの数々が見受けられて、士朗は驚きに目を見張った。  『ファンサガ』は、公式からの配給はほとんどオンライン上しかない。書籍は多少あるものの、グッズ関連は皆無と言っていいはずだった。それなのに、雪哉の本棚にはその数冊の書籍と一緒に開発者くらいしか持っていないはずのファンの間でもあるのかないのか議論が続いているような初期武器の縮小レプリカや、制作発表時に関係者にだけ配られたような粗品が数点、そんな絶対に一般には手に入らないけれど公式が作った物だとわかるグッズが数点並べられていた。一周年の上位だけに贈られたレアカードの比ではない激レアアイテムばかりだ。 「え、なんでこんな物持ってるんだ……?」  そう言えば、パソコン版とゲーム機版の両方を持っているのもよく考えれば一般プレイヤーとしては特殊だった。ハマり込んでアカウントを二つ持っている可能性もないわけではなかったが、『スノー』は結構な上位プレイヤーなので、そうそう学生の身分で二つのアカウントをやり込む時間もお金もあるとは思えない。二つとも雪哉の部屋にあったから、家族と共有で遊んでいるという訳でもなさそうだ。  かといって開発者と疑うには要素が足りなさすぎる。何せ今日のイベント開始日に士朗とお茶していた位だし、今まさに新たに配信されたイベントをあーだこーだ言いながら二人で攻略している途中なのだから。  じっとレアアイテム達を食い入るように見つめていると、ふいにガチャリとドアが開き雪哉が顔を出した。
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