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「夕飯、出来たぞ。下に降りて来い」
「なぁ雪哉、ここにある物ってさ……」
「あ、それ? 欲しいものがあったら持って行っていい。従兄がテストプレイのお礼って良く置いて行くんだけど、俺はあまりグッズには興味ないんだよな」
「は?」
「あ、でもテストプレイって言っても、今は普通のプレイヤーと同じタイミングでしかプレイしていないから、攻略とかはわからないぞ。まぁ普通に遊んだ感想やら要望やらを、一プレイヤーとして報告してるって感じだな。たまに報酬として課金アイテム貰ったりしてるから、ちょっとだけ得はしてるけど」
「もしかして、雪哉の従兄って……」
「『ファンサガ』作ってる。最初に頼まれたのは、従兄が大学生の頃だったからもう五年くらい前かな? 俺ゲームは昔から好きだったし、まだ中学生だったからお小遣い貰えるのは嬉しかったから。
本格的に発表するって時にテストアバターを消して新規プレイヤーとして登録してからは、今のスタイルだ」
「凄ぇ……『ファンサガ』って最初は個人が開発したゲームだったっていうの、本当だったんだ」
「今でも会社として立ち上げはしたみたいだけど、実際に作ってるのは数人だぞ」
「マジかぁ、うわぁ……『ファンサガ』の創造主が従兄とか……羨ましい」
「創造主って……お前本当にこのゲーム好きなんだな。期待を裏切って悪いが、普通のそこら辺に居る男だぞ」
雪哉は呆れた様な表情をしているが、士朗からしてみればとんでもない事実を目の当たりにした気分だ。こんなに近くに、大好きなゲームを生み出した創造主と関わり合いになる人物が居ただなんて。
「お前は、事の重大さをわかってない」
「興奮するのはいいが、とりあえず飯食わねぇ?」
「食べながら、詳しく!」
「はいはい……ったく、俺には向けない瞳しやがって……」
「何か言った?」
「いや、何でも無い」
雪哉がぼそりと何か呟いていたが、大好きなゲームの創造主について聞けると興奮していた士朗の耳にはその言葉の内容が入ってこず、問い返してみるが答えは返ってこなかった。
自分に言われた言葉の様な気がしていたのだが、大した事でも無かったのだろうかと首を傾げながら、士朗は雪哉に続いてダイニングがあるという一階に降りていった。
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