相棒のその先に

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「ご馳走様! 早く部屋に戻って続きやろうぜ」  何かを誤魔化すようにぱんっと勢いよく手を合わせて立ち上がって食器を流しに運び、どことなく逃げるように二階へと駆け上がる。背後で慌てたような雪哉がガチャガチャと食器を片付けている音が聞こえて、すぐに追いかけてくる気配がした。 「待てって……!」 「な、なんだよ」  士朗が部屋に飛び込むように駆け込むのと、雪哉がその腕を取ったのはほぼ同時だった。ちらりと伺うように顔を上げると、思った以上に真剣な顔をした雪哉と視線がかち合う。  思わず怯むと悲しそうに瞳が揺らすから、こっちが悪い事をしているような気がしてしまう。実際に逃げ出したのは士朗の方だけれども、雪哉がこんなに必死な顔で追いかけて来るとは思っていなかったから、びくつくのは仕方ないと思う。別に傷つけたいわけじゃない。 「言っておくが、俺の好みの可愛い系は『ありす』ちゃんだからな」 「へ?」 「ちなみに男の好みは、お前だ」 「へぁ? え……ぇぇぇぇぇ?」 「お前が気にしているのは、そういう事だろ」 「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 何で……いや何がそうなってその結論に……?」 「違うのか?」 「え、う……ーん、違わない……、かも……?」 「疑問を疑問で返されても、俺にはお前自身の気持ちはわからないぞ」  突然の雪哉の告白に頭がパニックになりかけるが、雪哉が冗談で言っているのではないことはその真剣な表情でわかったし、何より確かに雪哉の好みを自分から聞いておいて、自分じゃない誰か知らない女の子の影が見えた途端に面白くないと感じてしまっていた気持ちが吹き飛んだ。むしろ唐突な告白にもかかわらず、ちょっと嬉しいとさえ感じている。 (あれ、俺もしかして雪哉の事そういう意味で好き……なのかな)  話が合う友達としてとか、大好きな『スノー』だからとかじゃなくて、酒井雪哉という男を友達以上の意味で好きだと思っている? 傍に居るのが一緒に居るのが心地良いと感じるのは、そのせい?  そうだと仮定して考えると、昨日からちょくちょく感じていた胸につかえるようなもやもや感が、それで説明出来てしまうような気がした。 (えー、嘘だろ……? 俺、男もいけたのかなぁ)  ずっと女の子が好きだと思っていた。友達としては男女問わず誰とでも仲良くなれるけれど、付き合いたいとかずっと一緒に居たいとか、そんな恋愛感情を持ったことは今までなかったから、良くわからない。  でも、ずっと小さい頃から一緒に居る敏之の事をそんな風に見れるかと問われれば、それは否としか答えられないから、誰でも言い訳ではないのだと思う。  『スノー』が雪哉だとわかって、女の子だったら良かったのにと思った。それなら付き合えるのにって。初めての恋愛感情は、一瞬で失恋の道を辿ったはずだったのだけれど。その好きは、女の子だからじゃなくて雪哉だから好き、だったのだとしたら。
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