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「俺、雪哉の事が好き……みたいだ」
ぽろりと言葉が溢れる。それを聞いた雪哉が驚いた様に目を見張って、そしてゆっくりと確認するように士朗に真っ直ぐ視線を合わせた。
「それは、友達として?」
「さっきまでそう思ってたんだけど、何か違ったみたい」
「なら、抱きしめてみてもいい?」
「えっ……? う、うん……いい、けど……雪哉の好きは友達として、なんだよな」
カフェからの帰り道、電車の中で確かにそう言っていた。あの時は自分の好きが友達の好きだと思っていたから、同じように思っていてくれていることに嬉しさしかなかったけれど、今はそれが辛い。俯いた士朗を、雪哉がそっと抱き締めた。
士朗と雪哉の身長差はそこまで広くはないはずだが、やはり士朗の方が少し低いからだろうか、すっぽり包み込まれている安心感がある。
「お前がそう思いたいみたいだったからさっきはそう言ったが、俺の気持ちは間違いなく恋愛感情だ」
ほんの少しも拒絶反応が出ないどころか、繋がり合う体温が心地良い。耳元に囁くような雪哉の声は、それが本心だと伝えてくる真摯さで疑いようもない。
「それって、俺と同じ気持ちって……事?」
「そう」
「いつ、から……?」
「……お前が嫌がる俺を無視して、遠慮無く学校で話しかけて来た頃から」
雪哉が「本当はもっと前からだけど……」と心の声が思わず出てしまった様に呟いた言葉は、あまりにも小さすぎて士朗には届かなかったけれど、例え届いていたとしても士朗はその前の言葉で充分に驚いていたから、気付かなかったかもしれない。
「え!? 俺が『ありす』だってわかってからじゃないの?」
「俺は『ありす』ちゃんの事をずっと好きだったから、確かに決定打は今日だけどな」
「でもそれって俺が『ありす』じゃなくても、好きになってくれてたって事?」
「そう言う事だ」
「……やばい、凄い嬉しい」
思わずぎゅっと自らも両手を雪哉の背中に回すと、抱き合う形になった。数時間前いや数十分前までは考えもしなかった状態にあるのに、雪哉の胸の中はなんだかとても落ち着く。一緒に居るのが落ち着くし離れたくないと感じた初めての気持ちの正体は、実際の所とても単純なものだったらしい。
ふふふ、と雪哉の耳元で笑ったのがくすぐったかったのか、雪哉が少し身体を離すと、至近距離で見つめ合う状態になる。
(あ、これって……)
士朗の思考が今の状況を把握しきる前に、雪哉の唇が士朗のそこへと重なった。
何が起きたのか理解した後、一瞬のようでけれど凄く長くも感じたキスから解放された時には「はぁっ」と大きく息を吸い込まなければならない位には、呼吸を奪われていた。
ぼうっと酸素が足りなくてぼやける思考の中に、雪哉の優しい表情がいっぱいに広がる。それは間違いなく『ありす』を見つめる『スノー』のそれと同じだった。
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