優等生の落とし物

3/4
77人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 休み時間毎に突き刺さってくる、話しかけたくて堪らないと言わんばかりの士朗から向けられる熱い視線に耐えきれなかったのか、昼休みは声をかける前に逃げるように雪哉は教室を出ていってしまい、士朗の突撃計画は不発に終わってしまった。  避けられてしまっているからなのか、話しかけられないまま一日の授業が終わってしまう。だが、士朗は雪哉との会話を諦めるつもりはなかった。 (あれ絶対、激レア非売品だった! 酒井もあのゲームやってるのかもしれない! 話したい!)  士朗の頭には、朝に拾った雪哉の落とし物で頭がいっぱいだった。  士朗が今休日を潰してしまっても構わないくらいにハマっているのは、『ファンタジーワールド・オブ・サガ』という人気のある王道ファンタジー系オンラインゲームなのだけれど、意外と士朗のそこそこ広いと思っている交友関係の中にもオンラインゲームとなるとやはりある程度のゲーマー気質でないとハードルが高いのか、今のところ現実世界でプレイヤーは見つけられていないのが現状だ。  唯一話が出来るのが敏之だけで、その敏之は基本ソロプレイヤーでなかなか一緒に冒険に付き合ってくれない。ゲーム上だけの仲間ももちろん頼もしいし交流も楽しいのだけれど、たまには現実世界でも色々と話したい事だってあるのに。  雪哉が落としたのは、そのゲームの一周年記念イベントの時に上位入賞者十名だけが貰えたはずの箔押しラミカードに見えた。  裏面にプレイヤーのアバターが印刷される特典だったはずだけれど、流石にあの一瞬でそこまで確認することは出来なかった。だが表面にゲームのロゴが印刷されていたから間違いないはずだ。  何故そんなに確証があるのかといえば、士朗もそれを狙ってイベント上位を目指していたからだ。残念ながらトップ五十には入ったものの、十位入賞とはいかなくて悔しい思いをした。このゲームはなかなか公式がグッズ等を出してくれないので、持ち歩けるアイテムがどうしても欲しかったのに。  だからこそ、それを持っている雪哉はかなりコアなプレイヤーである事は間違いなく、ようやく見つけた話し相手だ。正直なところ、雪哉がゲームをするというイメージが全くなかったので、今まで話題を振っていなかった。振っていた所で基本誰とも積極的に交流を持とうとはしない雪哉に相手にしてもらえたかどうかは別問題だけれど、士朗はそんな事を気にする性格ではない。  部活にも入っていない雪哉はホームルームが終わると、そのままさっさと教室を去ってしまう。  きっと明日になってもこの状況が変わることはないだろうから、ゆっくり話すのなら帰宅までの時間しかない。そう判断して士朗は慌てて鞄を持って立ち上がる。 「士朗、この後どっか寄って帰るか?」 「敏之悪い、今日は先に帰るな!」 「お、おい、ちょ……」  いつも一緒に帰宅している敏之が振り返ってこの後の時間の相談をしようとした時には、既に士朗は教室を出ようとしていた所だった。  片手で作った「ごめん」のポーズを残して、士朗がバタバタと教室から去って行くのを引き留めることも出来ず、朝に一言交わしただけの会話から士朗が雪哉の様子をそわそわと気にしていた事に気付いていた敏之は、単純な士朗の行き先が簡単に予想できたから「まぁ頑張れ」と見送るしか出来なかった。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!