ありすとスノーの邂逅

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ありすとスノーの邂逅

 地元の駅から約20分、久しぶりに出てきた都会のカフェに士朗は約束の10分前に着いた。  人と会うことをあまり好まなそうな『スノー』との待ち合わせだったので、個室のある場所がいいかとも思ったのだが、所詮学生の身分では居酒屋に行けるわけでもなく、個室のあるお洒落な店を予約出来るわけもない。  雪哉かもしれないという可能性はあるものの、『スノー』が女性である可能性も多大にある。むしろ、あのカードを見ていなかったら、『スノー』と雪哉を繋げて考えることなんて絶対になかった。そうなると、多少人目のあるカフェの方が安心だろう。  というか『ありす』の方が恐らくというか絶対に女性だと思われているはずだ。自分でも、ゲーム内では結構可愛らしく演じられていると感じている。たまに素が出てしまうのはお愛嬌って事で流していただきたい。  だからこそと言うべきか、今日の二人の待ち合わせ場所に指定されたこのカフェは、よくあるチェーン店ではなく女子受けする優しい雰囲気の店内だった。とはいえ、男子高校生が一人でいても浮かない程度にはキラキラ可愛い系ではないのが救いだ。  でも注文を聞きに来てくれたウェイトレスに「待ち合わせなので注文は後で」と頼んだ時に、初々しいデートの待ち合わせだと思われているような視線は感じてしまったが。  テーブルに置かれた水を一口含み、窓の外へ視線を向けようとしたら手元のスマホが震えた。画面を確認すると『ファンサガ』からのチャット通知が来ている。  このゲームは基本的にパソコンやゲーム機を使って遊ぶ本格的なオンラインゲームだが、簡単なクエストやフレンドとの交流が出来るゲームと連携させられるスマホアプリもリリースされていた。そこにログインしていれば、ゲームをプレイしていなくてもSNSアプリのように簡単にフレンドと会話ができる仕様だ。  士朗は今まで使った事がなかったのだが、『スノー』と会うことが決まってから連絡手段としてダウンロードした。つい空き時間に遊んでしまえる分、勉強をしなければいけない時間等に誘惑がなかなか凄い。 『もうすぐ着きます』  アイコンはそれぞれのアバターになっていて、『スノー』のアバターから発せられた連絡に楽しみで顔がにやける。  大人数でオフ会をする時には、突然来られなくなる人もいつも何人かは出て全てが予定通りには行かないものだ。二人きりで会うとなると、そうなった時の寂しさは比べものにならないから、『スノー』がちゃんと『ありす』に会いに来てくれた事にほっとする。 『私はもう着いてる! 窓際の一番奥の席にいます。目印は、ウサギのぬいぐるみを持って来たよ』  素早く返事を打ちながら、ここに来る前に恥ずかしさを堪えて買った白くて小さなウサギのぬいぐるみをテーブルに置いた。初めて会う相手だし、お互いを認識する目印は必須だ。わかりやすく『ありす』はうさぎ、『スノー』はエルフらしく何か花をモチーフにした物を持って行こうという事になった。  実は男なんだと言いそびれたまま、うさぎモチーフの物を引き受けたはいいが、士朗がそんな可愛らしい物を持っているはずもない。慌てて今日少し予定より早く街に出て、最初に目に付いたウサギの何かを買おうと決めていたのだが、あまりにも女子力の高そうな可愛い店ばかりで気後れし、結局何とか唯一入り込めたのはバラエティショップだけで、女児用かもしれないと首をひねりつつウサギの可愛らしいぬいぐるみを買った。  『スノー』が女の子だと仮定して、せっかくだからアクセサリーやキーホルダー等にしてプレゼント出来たらと思っていたのだが、誰とも付き合った事が無い士朗には、一人で女子しかいないキラキラした店内に入るのはハードルが高すぎた。  出来る男っぽい格好良い用意は出来なかったけれど、ぬいぐるみもプレゼントには定番だろう。小さめのものだし邪魔にはならない程度のぬいぐるみを嫌いな女の子はいないと、信じたい。  返信後すぐに「了解」のスタンプが返ってきた。と同時に、店の入り口のドアが開く。そこには、一本の赤い薔薇を手に持った私服の雪哉が立っていた。薔薇を持っているなんて気障にも程があると思うのに、やたら似合っていてちょっと悔しい。  口をぽかんと開けて同学年のクラスメイトとは思えない格好良さに呆然と雪哉を見つめていると、雪哉が士朗を見つけてそのまま真っ直ぐこちらに向かって来た。
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