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優等生の落とし物
自室の小さなテレビ画面に倒れたモンスターの姿と『WIN』の文字が浮かび、藤堂士朗はコントローラーを置いて大きく背伸びをした。
『お疲れー』
『ありがとう!』
『最高の勝利! また会おう』
等々、画面上には一緒に戦った仲間達から一斉にチャットが飛んでくる。
『ありがとう。またよろしくね』
慌ててコントローラーを再び手に取り、ぽんっとぺこりとお辞儀をしているスタンプ混じりでそれらに続き、士朗は自身の分身であるうさ耳の可愛らしい女の子のアバターに、去って行く仲間達の後ろ姿へ手を振る動作をさせる。
「はー、やっと勝てた」
今回のクエストは難題で、結局休日を潰してしまった。だが最後に勝利を勝ち取れたから、そんなのは些細なことだ。
満足感に包まれながら画面に視線を向けると、パーティが解散した後も士朗が初心者の頃からずっと助けてくれて、時間が合えばいつも一緒にゲームの中を旅している綺麗でスタイルの良いエルフのお姉さんこと『スノー』だけが残っていた。
『ありすちゃん、お疲れ様』
『スノーさんも! 今日も楽しかった~』
『今日はもう遅いから、私ももう落ちるわね』
『うん、いつも助けてくれてありがとう! またね』
『えぇ、また』
チャットと同時にスノーのアバターが手を上げていたから、それにぱんっと手を合わせて打つ動作をして、勝利を喜び合ってから別れる。ちなみに『ありす』というのが士朗の使ううさ耳少女アバターの名前だ。
ウサギと言えばアリスだと思って付けたのだけれど、後日友人に「それは追いかける方の奴の名前だ」と呆れられた。が、もう既にある程度遊んだ後だったため今更名前を変更するのも紛らわしく、そのままになっている。
時計に目を向けると、既に時刻は0時をとっくに過ぎていて月曜日に突入してしまっていた。
「俺も寝よ」
やっと手に入れたレアアイテムを眺めながら、今回のクエストで手に入れたアイテムの整理に取りかかろうかとも思ったが、これから先の一週間を考えると今日は寝ておく方が堅実だと判断して画面からログアウトし、そのまま後ろにあるシングルベッドに倒れ込む。数分もしないうちに、士朗は夢の世界へ旅立っていた。
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