#4 変わらない幸せ:二年前ありふれた日々

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「ああ、今日もコーヒーが美味い」 「そう、よかった。この豆好きよね、透矢」 「この間、由璃がいなかったとき自分で淹れてみたけど違ったんだよな」 「じゃあ毎朝コーヒーを淹れる時間がとれるように、私を起こしてね」  ふふふ、といたずらっ子のように微笑む由璃子の頭をぽんと撫で、透矢はふたり分のカップを持ってキッチンへ向かう。食後のコーヒーカップを洗うのは彼の役割だった。その間に由璃子は身支度を整えてふたり一緒に家を出ていた。  お互いに片親で物静かで人見知り。学校生活に馴染めず昼休みに屋上で過ごした高校時代。由璃子が二年生になると透矢は大学生になったので屋上で昼をともにすることはできなくなったけれど、同じ敷地内、時間が合うときは透矢が由璃子を送りがてら一緒に帰った。由璃子の母と三人で夕飯を食べてから、祖父のためにと持たされた惣菜を手に自宅へと帰る、そんな日々を送っていた。  透矢が大学に上がって数年後に祖父が亡くなり、由璃子が社会人になった頃母が亡くなった。ともに身寄りがなくなったふたりは一緒に暮らすようになり、ずっと寄り添い支え合って生きてきた。それはごく自然のことだった。
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