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そこには、透矢が知らない由璃子がいた。砂浜を気持ちよさそうに歩いている姿、車の助手席に座る横顔、仕事場……だろうか、どこかの事務所で熱心に何かを見ている後ろ姿。
そして、たしかにこの部屋にいる彼女。この部屋で料理をしている様子、食事中にふいに撮られたような気を抜いた顔、洗濯物をたたみながら寝てしまった姿、布団に埋もれた安心した寝顔。
この写真の由璃子を覚えていない。こんな風に過ごした時間を知らない。それでも——
レンズに向けられている柔らかな微笑み、眼差し、それはずっと透矢が見てきた由璃子だった。
僕が愛した人は、由璃だったのか——
いつか忘れてしまうかもしれないという不安を抱えながら、自分が彼女を愛した証を残して、望月に託した。もう一人の自分が、由璃子を必死に守ろうとしていたことを目の当たりにして、驚きと困惑と少しの嫉妬、そして胸を締めつける思い。次々にいろんな感情が押し寄せてきた。
でもやはり、最後に湧き上がってきたのは……
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