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「そうだった」
吐息まじりの由璃子の声は、思いのほか柔らかくて。
「透矢は、ちょっと抜けてるところがあるのよね」
「ん?」
「ぼうっとしていることもよくあった。朝寝坊だし」
ふっと笑う由璃子は、すっかり目覚めたようで。
「朝寝坊なら、由璃の方が」
「え?」
「なかなか起きない由璃を起こすのは大変なんだよ」
拗ねたように言う透矢の目は潤んでいて。微笑み合うふたりの頬には次第に涙が伝っていった。
「もう……もう…………も、う……」
微笑みながら涙を流している由璃子は、ぱたぱたと透矢の胸を叩いた。もちろん透矢にとって、痛くもかゆくもないのだけれど。柔く受ける衝撃はじんわりと胸の奥まで響いていた。
「心配、したんだからね」
「うん、うん……」
——こわかった
由璃子の震える唇から、最後にひと言こぼれ落ちた。
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