#19 取り戻す:すべてはこの腕の中に

6/19
前へ
/229ページ
次へ
「そうだった」  吐息まじりの由璃子の声は、思いのほか柔らかくて。 「透矢は、ちょっと抜けてるところがあるのよね」 「ん?」 「ぼうっとしていることもよくあった。朝寝坊だし」  ふっと笑う由璃子は、すっかり目覚めたようで。 「朝寝坊なら、由璃の方が」 「え?」 「なかなか起きない由璃を起こすのは大変なんだよ」  拗ねたように言う透矢の目は潤んでいて。微笑み合うふたりの頬には次第に涙が伝っていった。 「もう……もう…………も、う……」  微笑みながら涙を流している由璃子は、ぱたぱたと透矢の胸を叩いた。もちろん透矢にとって、痛くもかゆくもないのだけれど。柔く受ける衝撃はじんわりと胸の奥まで響いていた。 「心配、したんだからね」 「うん、うん……」 ——こわかった  由璃子の震える唇から、最後にひと言こぼれ落ちた。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!

433人が本棚に入れています
本棚に追加