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食事を終えて改めて空になった皿やカップを見た透矢は、思わずぼそりと呟いた。
「ここで由璃と暮らしていたのは、僕だったんだよね」
「え?」
「この皿も僕が選んだの?」
「……ええ、そうよ」
「カーテンもシーツも?」
「うん……」
透矢の胸の奥には何とも言えない思いが燻っていて。由璃子が困るとわかっていながらも、気づけば心の声を口にしていた。
「由璃は、その彼をまだ愛しているの」
え、という目で一瞬息をのんだ由璃子だったけれど。ぱたりとまばたきをすると、真っ直ぐに透矢を見て言った。
「それは、あなたでしょう」
「でも僕は覚えていないから」
寂しそうに伏せられる透矢の目が、あまりにも切なげで。
由璃子は立ち上がってリビングのソファの方へと向かった。透矢が不安そうな目で彼女を追っていると、鞄の中から大きめの本を取り出して戻ってきた。
透矢の目の前に差し出されたそれは——
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