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「きみは一年生?」
「あ、はい」
「教室は居心地悪い?」
「えっ、あ……」
「僕もね、毎日売店で買ったパンをかじっていたら周りが気の毒そうな目で見るから、クラスの奴も先生もね」
「……」
「窮屈だったからここで好きなように過ごしているんだ」
「あ、あの……」
「ああ、お金に困ってる訳じゃないんだ、ただ僕もじいちゃんも料理はしないってだけで。きみの弁当は美味しそうだね」
「母は大変なので、やらざるを得なくなったというか……」
「きみが作ったの?」
「……はい」
この流れだと家族の話になりそうだと、由璃子が身を縮こませて俯くと、急に目の前に影ができた。彼がしゃがみ込み由璃子の顔を覗き込むように名乗った。
「透矢」
「えっ?」
「僕の名前」
「あ、水原、由璃子です」
「由璃子ちゃんね、僕は透矢でいいよ」
「え……」
「苗字は、何度も変わったからさ、いまは広瀬」
父さんがいなくなって母親姓になったけど、その母さんもいなくなってからはじいちゃんと暮らしてる、自分でもいまは苗字なんだっけって思うことがあるよ、透矢はそう簡単に言うとふわりと笑った。その笑みは由璃子を心から安心させて、これまでぴたりと閉じられていた蓋がゆっくりと開いていった。
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