#2 出会い:十五年前ふたりの始まり

4/5
435人が本棚に入れています
本棚に追加
/229ページ
「私は、母と二人です」 「そっか」 「母は少し……体調がよくなくて」 「……」 「でも、父が充分遺してくれたので私もこの学校に通えています」  海外出張も多く多忙を極めていた由璃子の父であったが、病気がちな妻とまだ小さな娘をそれはそれは大事にしていた。どれだけ忙しくても疲れていても、いつも休日には由璃子と遊んでくれたし勉強もみてくれた。幼い由璃子も早く母を支えたいと、父に料理を教わった。休日に父と一緒に夕飯を作るのが由璃子の楽しみだった。  そんな父が出張先の国で事故に巻き込まれて突然亡くなった。それでも、自分に何かあったときに二人が困らないようにと、あれこれ用意してくれていたので、由璃子は父を失ったいまでも日々父親の愛情を感じられていた。そしてこれからは自分が母を守っていくと、亡き父に誓っていた。いつも出張へ行くときは「母さんを頼むよ」そう言って出かけていたから。  おかげで母と娘、慎ましく暮らしてはいたが特に不自由はなかった。母が治療に専念することもできるし学校にも通える、むしろ恵まれた環境だと思っていた。可哀想に、大変ね、お母さんはどんな仕事をしているんだろう、密かに囁かれていることも知っていた。由璃子が何も言わないのをいいことに、憶測に尾びれがつき本人の耳に届く頃には、その逞しい想像力に感心するほどの話になっていた。そして日に日に由璃子は何も言えなくなっていった。  でも、いまは——初めて会った彼に何も構えずに自然と話すことができた。それは由璃子自身も不思議なほどに。
/229ページ

最初のコメントを投稿しよう!