#2 出会い:十五年前ふたりの始まり

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「僕のじいちゃんもいまだに仕事があってね、それなりに有名らしいんだ」  透矢の祖父は、若い頃はその名だけでたくさんの依頼が舞い込む建築家であった。会社勤めであったらとうに退職している年齢のいまでも設計監理の依頼もくる。アドバイザーとしてプロジェクトへの参加を請われたり、彼を慕う若き建築士たちの訪問を受けたり、それなりに忙しい日々を送っていた。  幼い頃に両親を立て続けに失い、忙しい祖父に引き取られた透矢は、早くに大人になってしまったようで。親に甘えたり反抗したり、普通の子どもが経験するようなことも経ずに淡々と生きてきた。それでも、温厚で真面目、朗らかな祖父のもとで育ってきたので、透矢の発する声、ゆったりとした話し方や纏う雰囲気、そのすべては柔らかくて。人見知りの由璃子を容易く包み込み安心させるのだった。 「まあ、だから、お金には困ってないんだよね」  可哀相って言われるの、もう飽きちゃったよ、きみもだろ、そう言って嫌味なく笑う彼は、屋上から見える澄んだ空のようで。濁りのない透明な風のようで。真っ直ぐに見つめられるその目に射られて、由璃子は彼の黒く輝く虹彩を見つめたまま動けなかった。 「明日からあっちで食べるといいよ。ここは日が高くなると影ができなくなって暑いから」  だから僕はあそこで過ごしてる、そう言うと由璃子にハンカチを返して透矢は戻って行った。 ——また明日
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