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一年前式を挙げたホテルから、一周年記念の宿泊招待状が届いたのは、先月の終わりの頃だった。
——いちねん……
あれからもう一年が過ぎようとしていた。招待状を受け取った由璃子は、思いがけない突然の知らせに、仕舞い込んでいた記憶の箱を突かれる感覚に、僅かに動揺していた。それでも、リビングのコルクボードに貼ったホテルの庭園の風景が、その前を通るたびに由璃子の視界を掠めて。ふわりふわりと何かが積もっていった。
そしてあるときふとホテルに出向いてみようと思った。それはまるで透矢に誘い出されたかのようで、自然と身体が動き出していた。久しぶりの街の空気、新緑が眩しくそよぐ風は思いのほか心地よく、電車から降りてゆっくりと歩いたその通り道に画廊を見つけ、あの写真を目にしたのだった。
一年の間ずっとモノクロだった由璃子の世界に彩が差した。
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