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#4 変わらない幸せ:二年前ありふれた日々
ピピピピと軽やかなメロディが頭上に響いて、ベッドサイドに伸ばされた二本の腕。アラームに届いて重なった二つの手。その音を止めたのはどちらの方か。透矢はそのまま由璃子の手に指を絡めて布団の中へ引き戻した。ふたりともまだ半分夢の中のようで。
「おはよう」
「ん……おはよう」
透矢の掠れた声に反応して由璃子も返してみたけれど、目覚めには程遠い様子で額を彼の胸元へ擦りつけていた。
「起きないと」
そう彼女に告げる彼もまた、目は瞑ったままで。
ふたりとも朝は弱い。そして、アラームを止めてから起き上がるまでの時間を取り戻そうともしない。日頃から慌てたり急いだりすることもないふたりの時間はいつもゆっくり流れていて、朝の慌ただしい時間でさえもゆったりと支度をする。それでも由璃子が朝食の用意をしている間に透矢が洗濯をし、由璃子が食後の片付けをしている間にその日のゴミがきっちりと透矢によってまとめられるのだった。そうやってふたりの時間は塩梅よく成り立っていた。
すべてが終わり出勤前のほんのひととき、ふたりでコーヒーを飲む。それが毎朝の日課だった。
この暮らしが始まってからもう六年になる。ふたりが出会ってからは十五年が経っていた。
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