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ほろ苦い思いをした休日も終わりを告げ、私は仕事で外を駆けずり回っていた。文乃は今頃温かい図書館か、と思うと羨ましいけど、こちらは広告という花形稼業。殺人的な忙しさに辟易しつつ、今回の案件をエレベーターの中で確認する。……小さなアパレル企業。うちも規模としてそんなに大きくない会社だし、まぁ依頼先として妥当だったのだろう。
辿り着いた真新しいオフィスビルの34階。小ぎれいなミーティングルームで待つこと数分。ロングヘアの、まだ若い活発そうな女性が現れた。
「すみません、お待たせしちゃって。広報担当、藤道真冬です。本日はよろしくお願いします」
「FDホールディングス、営業の滝川栞です。こちらこそよろしくお願いします」
と社会人らしいやりとりもそこそこに、本題に入ってもらう。
「で、ご依頼の件なのですが……」
「はい。今から申し上げたいと思います」
ヒマワリみたいに元気に笑った彼女は、鞄から資料を取り出した。どうやら会社のラインナップらしい。こう見ると普通のアパレル企業なのだが、よく見ると着こなし方が少し変わっている。メンズっぽいデザインの服を可愛らしい女性モデルが着ていたり、ごつい男性モデルが花柄のシャツを纏っていたりする。
「うちは小さなファッションブランドですが、『多様性』を掲げた商品展開をしているんです。同じデザインでも、メンズサイズとレディースサイズ、両方作っています。うちのコンセプトとして『カタチを超える』というものがありまして。年代や性別といった、外側の形を超えて、いいな、と思える服を着て欲しいんです」
これお気に入りなの、という声が聞こえそうなくらい、モデルは皆心から笑っているように見えた。
「もちろん多様性は雇用にも表していて、全体の社員の7割は女性ですし、10%は性的マイノリティである社員たちです。全ての人に働きやすい職場を意識しています。ですので、そういった点を含めた弊社の魅力を伝えていけたら、と思っておりまして……」
そこで彼女は言葉を切り、顔を上げた。
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