"Across the eyes"

6/8
前へ
/8ページ
次へ
 溜息を零してリビングの机に沈み込んだ。話し合いは進んでいるけど、痛みと苦しさで私の心は擦り切れていくようだった。夜の10時半。文乃は既に寝ていて、リビングには私1人。私が忙しいのもあって、あれから文乃とあまり話せていなかった。  目が熱くなる。また泣きそうになった。心の中がぐちゃぐちゃだ。散らかった部屋みたいに混沌として、一体何を思っているのか自分自身でもよくわからなかった。  ……私、どうしたいんだろう。  目をつぶる。大きく息を吸った。バラバラになったピースを集めるように、心に渦巻く欠片を集めて並べていく。  怖い。恥ずかしい。隠さなきゃいけない。皆から避けられたくない。変な目で見られたくない。嫌われたくない。言って気まずい雰囲気を作りたくない。親から見放されたくない。1人になりたくない。嫌だ。……もう嫌だ。  …………逃げるのは、もう嫌だ!  知らず知らずのうちに私の心は叫んでいた。ぶるぶると空気が震える。色んな感情が爆発寸前だった。私の臆病を吹き飛ばそうと、燻ぶりが炎に変わる。じりじりと導火線が燃え上がっていく。これ以上隠したくない。……逃げたくない。惨めな思いで打ちひしがれたあの時を思い出す。もうあんな思いはしたくない。  堂々と言ってやりたいんだ、文乃は私の恋人なんだって。これが私たちの幸せの形なんだって。  バクバクと高鳴る心臓。鼓動の波紋と体の震えが私の中から広がって、この部屋全体を満たしていく。どこかで大きな音が聞こえた気がした。窓から見える星が大きく瞬いた。  やっぱり、私、やってみたい。カメラの前に立ちたい。確かに怖いし不安だけど、でもやってみたい。そう強く思えた。……答えは最初からわかっていたんだ。  後ろを振り返る。廊下の先に見える寝室のドア。……今なら、文乃がいる。もし、私の前から仲間がいなくなっても、文乃がいてくれる。たった1人で悩みを抱え込んでいた時とは違う。彼女が隣にいてくれる。それだけでも心が安らぐ。不安が消えていく。勇気が湧いてくる。……こういう時、可愛い恋人に頼らないでどうするのよ。  文乃はああ言った。それも一理あるとは思う。けど、文乃だって本当は同じように思っているはずだ。たくさん歯痒い思いをしてきた私たちだからこそ、伝えられるものがある。張り上げたその声が、力を持つ。  ……文乃を味方にしなきゃ。説得しよう。そしてカメラの前に立とう。私は立ち上がった。その目線の先には、赤い星が力強くきらめいていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加