817人が本棚に入れています
本棚に追加
放課後のバイトを終えて、家に帰る途中、このあたりでも有名な景色のよい広場に差し掛かり、足を止める。
昼や夕暮れ時は町全体が見渡せ、景色見たさにそこそこ人も集まるようだが、日が暮れてしまった今は家の明かりが見えるだけで人もほとんどいない。町が見えない様子が、自分の未来が明るくないことを表しているようで、少し心が暗くなる。そんな心の黒いモヤを散らすようにかぶりを振って、再び歩き出した。
この広場から出ている長い長い階段を降りれば、すぐに家に着く。
突然吹いた北風に冬の寒さを感じ、ポケットに手を入れたまま階段を下り始めた。
その時だった。
あっ。と思ったときにはもう遅かった。
階段が雪が溶けて凍っていて足を滑らせた。
体勢を立て直そうとして出した足がもう片方の足に引っ掛かり、体が反転する。視界いっぱいに広がる夜空に大きなオリオン座が光っていて、とても綺麗で、自分は死ぬのだと直感的に悟った。
落ちている途中でも走馬灯のようなものは浮かんでこず、唯一心を許しているコメの世話は誰がしてくれるのだろうかと呑気なことを考える。
でも、
でも、
こんなに早く自分に終わりが来るのなら、一度でいいから大切な人の「大切」になりたかったなぁと思う。両親のどちらかでも、中学校の時の初恋の部活の先輩でも、気になっていたバイト先の店長でもいい。
誰かの一番になりたかった。
愛されたかった。
落ちていくなかで、もうすぐ来るであろう衝撃に堪えるため、目を閉じる。
目を閉じる直前に視界のはしにコメが見えた気がして、自然と穏やかな気持ちになる。
そうだな。コメは俺のことを大切に思ってくれてたのかもな。
ありがとう。コメ………。
頭に感じる強すぎる衝撃で、俺の意識は遠のいていった。
最初のコメントを投稿しよう!