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もとの世界に、戻る…。
突然この世界に来てしまって、そりゃびっくりしたし、今だって不安だし…
…………でも、
戻ったところで大切な人も目標をもってしていたこともない。
俺は、
俺は……。コメさえいれば、それで、いい。
「……戻らないと、いけませんか。」
口をついて出た言葉は、切実さが少し滲んでいた。
もとの世界で、衣食住だって困ることは無かったし、きっと幸せな方だったと思う。
それでも、正直、もとの世界に戻りたいとは思わない。
だけど、…俺は、この世界では、異分子すぎるから。
それで、俺が生きていけなかったり、リオンさんたちに迷惑がかかるなら、戻る方がいいに決まっている。
魔法が使える世界なんだ、元の世界に返すことだってできてしまうのかもしれない。
考え込んで、暗い顔をした俺を見て、シアラさんは少し慌てたように否定した。
「いや、そうじゃないよ。
…お前さんは、もとの世界にはもう、『戻れない』んだよ。」
「…え?『戻れない』?」
「ああ。そうだ。実はさっき、失礼だけど、お前さんがこの世界に来る直前の状況を魔法で見させてもらったんだよ。」
人の記憶を見るのは禁忌魔法だから、お前さんの服を依代にちょちょいと過去を辿ってね。とシアラさんは続ける。
…そんなことも魔法でできちゃうの…、すごい。
「それで…タケル。階段から落ちたところで向こうでの記憶は途切れているだろう?そこからこの世界に来るまでの様子は、モヤがかかって見れなかったんだけど……
もし、方法がわかって、もとの世界に戻れたとしても、階段に落ちたお前さんは、どうなっているかわからない。
…言っている意味がわかるね?」
「……死んでしまうってことですか。」
「絶対ではないが、落ち方からするに、かなりの確率でね。」
「タケル!!!それなら!!!」
「リオン、今はちょっと黙っときな。話はまだ終わってないよ。」
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