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第3話
第3話:一期一会
6月19日、
「どうもお世話になりました。」
「おう!またこの街に来たときにはここによってくれ。」
私は酒場の主と別れの挨拶を交わして酒場を後にした。
大分猫らしくなってきた子猫とその母親が私を見送ってくれた。私は母猫の頭を撫でながら、
「さようなら、元気でいるんだよ。」
と声をかけた。
これからどこへ向かおうか?とりあえず西に向かって国境を越えて隣の国のダウランドに行ってみようか…?そうしよう。取り敢えず商店街に行き、これからの旅に必要であろう雨合羽と水筒、そしてパンと携帯用の食料を買ってくることにした。商店街に着き買い物をしていると、見知らぬ男が話しかけてきた。
「モテット?モテットじゃあないのか?」
その男は私のことを知っているようだった。
「・・あなたは?」
「覚えてないのか?ファルセットだよ。ほら、5年くらい前に一緒に仕事していたじゃないか。」
「あ、あぁ、ファルセットか。」
私はようやく彼のことを思い出した。私が染物の会社で働いていた頃に知り合った人物だった。それから私たちはしばらくその頃のことを話した。その後、彼はどこかへと去っていった。
私は正直なところ、その頃のことを上手く思い出せないでいた。私が忘れっぽいだけなのか、もしくは、そこに忘れなければいけない何かがあったのかもしれない。
いずれにせよ、人は幸か不幸か物事を忘れてしまう生物である。しかし、忘れてしまわなければ先に進めなくなってしまうこともあるのかもしれない。過去の連続として未来が生まれ、それに付随するかのように生まれてくる記憶と感情。
しかし、記憶も感情もとてもうつろいやすく変わりやすいものである。だからこそ私は過去よりも未来よりも現在が大切なのだと思う。
きっと、今ここでファルセットに出会えたことが大切。
一期一会。
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