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第2幕
第2幕:シマウマと、鬼と悪魔の住む家。
第一夜:少年の境遇
ここには・・・
・・・・確か10歳になるかならないかの・・・
・・・・確か少年が住んでいる。
彼はシマウマと鬼と悪魔の住む家に住んでいる。
少年は、この家の奴隷のように働かせられ、少年に作らせたご飯がまずいとか、鬼や悪魔が居ない間に、テレビのチャンネルを変えたとかの理由により、理不尽にも日常的に暴力を受けている。
少年には家庭での自由や、それに伴う言動も許されなかった。
シマウマは少年には普段優しかったが、少年に対して鬼や悪魔が暴力を振るった際には、自らの保身のため、シマウマは鬼や悪魔に加担した。
少年は、幼いながらに自分の境遇を理解し、今はそれを甘んじて受け入れるしかないことをわかっていた。
少年に対しシマウマは、優しいときによく彼らの昔話を聞かせてくれた。
シマウマは、両親が若くして病気で死に、それからとてつもない苦労をしたこと。
そんな中、よい人に会い、結婚し第1子に続き第2子を出産するも、シマウマが愛した男は事業に失敗し、それが原因となって、産まれてきた第1子である、少年にとっては鬼であるその子に対しストレス解消のために日常的に暴力を振るっていたこと。
そんななか、シマウマは新たな命が自分の中に宿っていることを知る。
その男からのこれ以上の暴力を避けるために、シマウマはこの小川のほとりにある家に移り住んだ。
シマウマはその家でまもなく第3子であるヒツジを出産する。
暫くの間、穏やかな日々が続いたが、ある日、その家に悪魔がやってくる。
シマウマは、悪魔の甘い囁きに躍らせられ、毎日を悪魔と暮らすことにした。
多分、シマウマも淋しかったのだと思う。
しかし。それは、この家の第2子である少年と第3子であるヒツジにとっては地獄の始まりであった。
悪魔は常にバットや角材を手に持ち、社会から自らが受けた言葉や待遇に対する不満を、暴力に変換して鬼や少年に振るった。
そして鬼は、自らが受けた鬱積した暴力のはけ口を少年に求めた。
多くの場合、鬼や悪魔の標的はヒツジではなく少年であった。
少年は、それを受け入れざるを得なかった。生きるために・・・・。
少年は、何があってもヒツジだけは守ろうと思った・・・。
「もう・・もう・・・もうやめて!」
と和音は叫んでいた。
しかし、この住人の耳には届かなかった。
和音はもうこれ以上見たくないと思った。
これ以上辛いものなど見たくないと思い目を瞑った。
しかし、次に目を開けた瞬間に、少年の物語は別の日の悲劇を思い出させた。
第2夜:水槽の魚
少年は、学校でいらなくなった大きめの水槽を担任からもらいうけ、その中に水を入れメダカ等の小魚を大切に育てていた。
しかし、そこに鬼がやってきて、少年に目障りだから、隣の雑木林に水槽ごと捨ててくるよう指示する。
大切に育てていた小魚なので少年は、一度は拒否するも、口答えしたとの理由により、鬼に凄まじい暴力を受け、やむなくそれに従う。
11月の空気は身を切るように冷たく、少年にとって水槽は大きく、水が入った水槽は一人で運ぶにはとても重たいものであった。
殴られた後のきしむ体で、水槽の中に住む魚だけは何とか助けようと思い、水槽を小川まで運ぼうとしたが、その手前の畑で手がすべり水槽は少年の手を離れ、畑の中で粉々に割れた。
水がなくなり、もがいている小魚たちを見て、少年は自らの無力さと、自分を守るために大好きだった魚たちを犠牲にした自分自身を呪い、夜空に瞬く星を見て涙した。
鬼はその様子を見て、笑いながら少年に
「ごめんな」といった。
その言葉に、少年は謝罪の意味を感じ取れなかった。
そこに、どこからともなく黒い服と黒いマントをつけ、120㎝ほどの直刀を持った剣士が現れた。
その剣士は和音の目の前で、その少年と鬼の両者を切り捨てた。
剣士は、少年と鬼を切り捨てた後で、
「お前たちは消えてしまえ。」
と、彼らに言った。
和音は彼らの血しぶきを浴びそうになって、思わずぎゅっと目を閉じた。
第3夜:釜茹での少年。
次に目を開けたとき、視界は小川のほとりにあるこの家の、浴室に移っていた。
少年は浴槽で気を失っていた。浴槽には、鬼の手により熱湯が止まることなく注がれていた。
この日、少年は鬼と共に入浴していたのであるが、少年が鬼に対して、些細な意見をしたことが鬼の怒りを買い、浴室で釜茹でにあっているのであった。
この事態に気づいたのはシマウマであった。シマウマはあわてて救急車を呼び、少年は病院へと搬送された。
ツキの誘導により、私はその少年が運ばれた病院へ向かった。
少年は意識のないまま、CTやレントゲン撮影の検査を受けていた。
顔や腹部や腕に殴られた後はあったが、幸いにも熱湯による大きな火傷の痕は無かった。
次に少年が気づいたのは、この病院の病室であった。
気を失っていたこともあり、少年には釜茹でに遭った前後の記憶は残っていなかった。
しかし、そのときの状況を、一部ではあるがシマウマが少年に教えた。
翌日、医師が警察官と共に少年の病室を訪れて、少年に事情を聞くも、自分自身の帰る場所が、鬼や悪魔の住む家しかないことをよく理解していた少年は、家に帰ってからのことを考え、日常的に行われている全ての事を、あえて何も語らなかった。
この時に少年は、自分の心を守るためには、もはや全てを遮断して殻を作り、その殻に閉じこもるしかないことを悟った。
この時の少年にとって、自らを救う方法はそれしかなかった。
そこにまたあの剣士が現れ、私とツキの目の前で全てを切り捨てた。
私の視界は、一瞬のうちに真っ白になり、そして、少しだけ私たちのほうに視線を向けてから剣士はどこかへ立ち去った。
剣士は、私とツキの存在に気づいているようであったが、不思議と恐怖心は湧かなかった。
私はツキに、
「ねぇ、あの人は一体何者なの?」
と尋ねた。
これに対しツキは、私と目を合わせることなく遠くを見て、
「彼は、卓越した剣術と、魔法により、この世界の均衡を守ろうとしている者。この世界での最強の魔法剣士よ。」
と言った。
さらにツキは、
「でも安心して。あの魔法剣士は、和音自身には絶対に危害を加えないから。」
と付け加えた。
その言葉の意味を考える時間もないほどの素早さで、私の視界は再びあの家に移っていた。
「今度は何を見せようと言うの?こんな酷いものをみせて、私に何をしろというの?」
と、私は、恐怖が支配する家に住まざるを得ない、辛い少年の気持ちを考え、震える声で独り言のように呟いた。
気がつくと、私は涙を流していた。
ツキはその問いには何も答えてはくれなかった。
しかし、その代わりに、私の手をぎゅっと握ってくれた。
第4夜:逆さ吊りの少年
私の視界は、この恐怖が支配する家のベランダに移っていた。
そこには、雨水を溜めておくための底の深い水瓶があった。
それは植物に水をやるために用意されていたものであった。
その水瓶には並々と雨水が蓄えられていたが、夏の暑さで藻やボウフラが湧き、とても汚れていた。
鬼はベランダの縁に立ち、小柄であった少年の足首を逆さに持って、少年の頭を少しずつその水瓶に沈めていく。少年は当然苦しくてもがくが、もがけばもがくほど、口や鼻の中に汚れた水が入ってくる。
鬼が修行のため、お前のためと言い、少年に無理やりさせていたこの行為は、その夏に何度も何度も行われた。
少年はその後きれいな水で顔を洗うことすら許されなかった。
その行為を行った後で、鬼は少年に笑いながら、
「楽しかっただろう?」
と決まりごとのようにいった。
少年はそれに対して頷くしかなかった。
イヤ。と言えば散々殴られることを知っていたからだ。
さらに鬼は少年に対して、
「俺に降りかかる災難はどれもこれもみんなお前のせいだ。お前なんか見たくもない。」
というのだった。
少年はとてつもなく惨めな気持ちになりつつも、
「そうですね。」
というしかなかった。
鬼の機嫌を損ねると、自分自身がどんな仕打ちを受けるかをよく解っていたからである。
「・・・もう見たくない!もうやめて!」と私は涙をこぼしながら叫んだ。
すると、そこにまたもや魔法剣士が現れ、全てを切り捨てた。私の視界は再び真っ白な世界になった。
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