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第5幕
第5幕:翼の生えた卵
再びもとの真っ白な世界に戻った私であったが、傍らには、ツキだけではなく、魔法剣士もいた。
しかし、魔法剣士の腕にも懐にも、もう刀はなかった。
そしてもう一つ、目の前には、一定の距離を保ったままつかず離れずに、私たちと向き合っている真っ白な翼の生えた真っ白な卵がいた。
ツキと魔法剣士は声をそろえていった。
「この卵こそ、今までのこの世界の中心にあった和音の心の姿。そして私たちが守ろうとしていたもの。」
さらにツキは続けた。
「この卵は、人のぬくもりが恋しいんだけど、それと同時にそのぬくもりがたまらなく怖いの。
だって、一度そのぬくもりに慣れてしまうと、失ったときに本当に辛いからね。
だから、常につかず離れず、一定の距離を置いて接しているんだ。」
そうツキが言った後で、魔法剣士は言った。
「自分にしか出来ないこと。
それは自分自身を救うこと。
自分を慈しみ、愛し、受け入れること。
それは教えられなくても心を澄ませば解ること。
この卵は、この世界の中心であったが、あの少年と同じように常に和音自身の助けを必要としていた。
今の和音なら、この卵も救えるはずだ。」
と言った。
その言葉を聞いた後で私は、翼の生えた卵にゆっくりと近づいた。翼の生えた卵は、逃げることなく和音の両手に収まった。
そして、ゆっくりと和音の中に解けていった。
「和音、もう言うまでもないと思うけど、私もあなたの一部、あなたがツキと呼んでいる和音なのよ。
そして魔法剣士もそう。
魔法剣士としてこの世界の均衡を守っていた、魔法剣士と呼ばれる和音なのよ。
みんな、あなたの救いと、あなたに認めてもらえることを望んでいるの。」
とツキは私に言った。
ふと横を見ると、私に向けて、魔法剣士が右手を差し伸べていた。
私はその手を握り、
「今まで本当にありがとう。
そして辛い役ばかりさせて本当にごめんね。」
と言った。
すると魔法剣士は、
「和音に謝られるなんて、思ってもみなかったよ。」
と言いながら、深い思いやりのある眼差しで私の手をぎゅっと握り返してくれた。
そして、魔法剣士も光の塊となって、私の中に解けていった。
二人だけになったこの真っ白い世界で、ツキは、
「ここを抜け出すためには、もう一箇所だけ通らなければならない場所があるの。」
と言った。
そして、私の手を握り、
「私はいつでも和音の傍にいるわ。不安になったり、淋しくなったりしたら、いつでも心を澄まして、心の中を覗いてみてね。私はそこで待っているから。」
と、ツキはいつもの満面の笑みを浮かべた後で、光の塊となり、私の中に解けていった。
私は真っ白な世界の中で宣言した。
「もう逃げないわ。だって、みんなが私を見ていてくれるもの!今まで、みんなが守ってくれていたから、ここまで来れたんだもの!」
そういった瞬間、私の視界は揺らぎ始めた。
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