第25話 冬休みへ

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第25話 冬休みへ

 金田 一華は椅子に深く座り、「やっと終わった」とつぶやいた。 「事件がですか? それとも学期がですか?」  小林君が荷物を袈裟懸けにしながら聞く。 「学期。やっと、これで学校に来なくていい。あぁ、優雅に昼まで寝られるのだよ!」 「寝られますかね?」  一華は首をすくめる。  小林君は、一華が住んでいるマンションの二階で、一華の叔父が「なんでも屋」をしていることを知っている。探偵業のような本当に何でもする。一華はそこに一応従業員という形で在席している。休みの日などはそこの仕事に追われている。時々、小林君も呼びつけられるので、「休めるといいですけどね」と言えるのだ。 「さて、これで、来年の新学期までは封鎖です」  小林君が個室(Z16号室)の鍵をかける。 「以前ならね、クリスマスだろうが、正月だろうが、発掘実習したいという子はたくさんいたんだけどね、今は、寒いからいやだってさ」  一華はぼやく。小林君もその後を追う。  階段に来て、一華が上を見上げた。小林君もそれにつられて見上げる。  午後の光がへ行ってきているが、それは淡く、あの事件の時のような禍々しい光が入ってきてはいなかった。 「そもそも、この北舎を閑散とさせるから」小林君がぼそりという。 「しようがないさ。現理事長は考古学が嫌いなんだから」 「でも、前理事長の奥さんでしょう?」 「だからじゃない? 家庭を顧みず発掘に勤しんだわけだからね。挙句が、多額の借金をして、考古学のための大学を作った。なのに、学校が創立されて二年で死んだんじゃぁねぇ。それに今時、考古学部だけある大学なんて、需要あるわけないじゃないか。他の教科、生きていくうえで必要な教科の導入はしようがないことだよ。だからこそ、考古学部を無くしたいけど、無くせないんだろうね」 「無くなったらどうするんですか? 他の学校へ行くんですか?」 「いや、家に居続けるよ。ニートだよ、ニート」  小林君が嫌そうに鼻で笑う。  北舎を出ると、すっきりとした冬の風が二人を包む。  生徒たちが学校を出て行く。  しばらくの間、寂しくなる学校が引き留めている錯覚を覚える瞬間だ。  小林君は、友達を見つけたのか、一華に手を振って走っていった。  一華は空を仰ぐ。 「虫が入るぞ」  声に顔を戻せば、派手すぎる身なりの男が立っていた。 「イヤそうな顔をするな、仕事だ」  相手の言葉に一華は差し出されている紙を受け取る。 「ねぇ、……その派手なスーツ、どうにかならない?」 「これは地味な正装スーツだ」  と言った田中 実の側に近づくと、「酒臭い」 「しようがないだろ、クリスマスだったんだから。ホストの最大稼ぎ時」  と微笑む。 「美人も年とともに酒が残るんだね。あぁ、いやだねぇ。加齢だ、加齢だ」 「失礼なことを言うな、これでも俺は、ディオゲネス・クラブのナンバー1ホストだぞ」  という実を置いて一華が歩きだす。 「お前のその無視する態度、可愛げがないよなぁ」  というが、一華から返事はなかった。  そして、次の事件は―。 ユウガオが咲く  完了
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