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第一話
イケメンすぎる数学者。という文字がファッション雑誌に載り、彼、佐竹 拓郎の周りはさらに賑わった。もともと賑やかであったが、メディアに出てからというものの、それ以上にせわしなくなった。
拓郎は現状が嫌ではなかった。本来目立ちたがりだったし、自分の容姿が優れているという自覚もあった。そのうえでフェミニストでもあるので女性受けがいいのも、小学校低学年のころから心得ていた。
だからと言って、話題が自分から別へ移動してもあまり気にするタイプでもなかった。この華やかさは翳るだろうが、それほどの翳りはない。と自負しているからだ。
雑誌取材を受ける。
―イケメン数学者と言われていますが、困ることとかありますか?―
「別にないですよ。僕は常に仕事とプライベートは分けれているからね」
―では、得したことは?―
「美人の女性レポーターが来ること。ですかね(笑)。それはさておき、数学に興味を持ってくれる生徒が増えることは学者としてはうれしいですよ。数学はとても楽しい学問だし、勉強と言われる中では一番美しいものだと思ってますからね」
「なんだ? あれは?」
随分と着古した白衣。両方についているポケットは荷物でパンパンに膨れて、歩くたびにその中身がガチャガチャ言っている。長い髪は色気もなくただひっ詰めていて、化粧すらしていない。かろうじて色付きのリップをさしているだけで、年を考慮しても、もっとキレイにしていたほうがいいと思われる。
「あぁ、数学の佐竹先生ですよ」
気のない返事をする。
「金田先生と違って仕事真面目で、教科布教に余念がない人です」
金田先生と呼ばれた女が、きれいな白衣を着ている助手の小林君のほうを見る。
「写真撮られることで、考古学を選択する学生が増えるとは思わんがね」
「でも、オープンキャンパスに参加して、考古学がいかに楽しいかとか、」
「そういうのはいいよ。楽しい学問じゃないから。苦痛と、貧乏にさいなまれるもんだから、夢を抱かせちゃいけないよ」
小林君は呆れたため息をつく。確かに他の学部のような華やかさはない。土をいじって下を向き、過去に縋っているのだから、年々求人学生数が減っているのは仕方がないことだった。
作業は単純だが、かといって適当に扱えず、保存環境を考慮して湿気がかなり少なくいつでも乾燥している。北舎と呼ばれる旧校舎に教室があるのだが、薄暗く影が付きまとっているので、校舎にすら近づく人は少ない。
金田 一華は教室に向かって歩く。
拓郎の取材はまだ続いていた。
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