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「ミステス・フランクリン女史が大公フィッツジェラルド殿下の愛人であるという噂でございますが……根も葉もない噂に過ぎません。大公殿下は世界に鳴り響くほどの美丈夫でいらっしゃいますから、他国がご夫妻の仲を裂こうと嘘偽りを流布したのに違いありません……信じるのも愚かしいゴシップでございます」
ヘリオット卿はきっぱりと言うと、口が汚れたとでも言うようにごしごしとハンカチで口をぬぐった。
ジェフリはふと思いつき、
「ミステス……それはバレッサ山脈にあったラーム神殿のカササギの翼が守護していた女神の名前だよね。教会では愛と友愛の天使、ミファイエスって呼ばれてる」
頭に浮かんだ言葉をそのまま言ってみた。何がキーワードになるか分からない。
こんな時には、思いついたままを言ってみる。
そうすることで、この場にいる誰かの次の考えにつながる。
その連鎖が、混乱した事態を解決する。
しばらく皆が黙り込み、ヘリオット卿がじりじりとトラックのボディを指で弾いた。
「ここで考え込んでいるうちに女王陛下はノルスバーン公国に連れて行かれてしまう。早く奪還しなければ……」
「そうですね……まずはお母様を連れ戻さなくては」
ユディアはつぶやき、そしてジェフリを見た。
「ジェフリは不満そうですね。何か気がかりなことがあるのですか」
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