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シエレンは近衛兵団が集結した広場の一隅、作戦本部となっているテントに身を潜めていた。
スリングの中では皇太子イリナスがすやすやと眠っている。
子供は良く眠るものだが、それにしても豪胆な性質だと頼もしく感じた。
女王アルテミアが命がけで産んだ皇太子だ……ダステレミア王国の命運を背負っており、大公フィッツジェラルドの欲望を後押しする存在であるともいえた。
近衛兵団は全員で七百人。ほとんどが大貴族の出身で国の中枢に親類縁者が多く、影響力も強い。
その全員が広場に集結している様は人目を引き、外部にこのクーデターの情報が流布するのも時間の問題だった。
シエレンに近衛兵団の長、カエキリア卿が話しかけてきた。
「シエレン、皇太子殿下をよくぞお連れした。これで我々の大義名分は盤石のものになったな」
かすかな苛立ちをにじませながら、カエキリア卿はイリナスの顔をのぞきこんだ。
「こうして眠っておられるお顔を見ると、やはり大公フィッツジェラルド殿下に良く似ておられる」
「親子でいらっしゃるのですから、当然かと思いますが」
シエレンの言葉に、カエキリア卿は背後に誰もいないのを確認してから、声を潜めた
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