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「やはり、イリナス皇太子もノルスバーン公国の呪われた遺伝を受け継いでおられるのか?」
「ノルスバーン公国の呪い……リアド・トラクスの錬金術師が、地下帝国の鉱脈について知る代償として吸血鬼に体を差し出したという伝説ですね」
「良くできた逸話だが……吸血鬼の一族だと昔から悪い噂が絶えない。アルテミア女王との婚約の話が出たときも、国中で反対運動が起きたほどだが、女王が自ら大公殿下を配偶者と決められた」
「初恋で、一目惚れだったのでしょうね」
シエレンの言葉に、カエキリア卿は呆れたような顔をした。
「王族が、恋だとかそんな理由で配偶者を決めるなど、何かの陰謀としか思えない。そもそも、この吸血鬼騒動の発端は、アルテミア女王が周囲の反対を押し切ってまで、ノルスバーン公国の王子と結婚し子供が生まれた。その事が始まりだったのだからな」
言いたいことだけ言うと、カエキリア卿はせかせかとした足取りでテントを出て行った。
ここにイリナス皇太子がいる事はごく限られた者しか知らない。
シエレンはカエキリア卿がユディア王女の安否について全く気にしていなかった事に安堵していた。
イリナス皇太子を近衛兵団が蜂起した時の旗印とすること。
その使命は果たされた。
そして、もうひとつの使命は、ハンベルト少佐からの頼み事だった……「もし、自分が蜂起までに戻れなかったらユディア王女とアルテミア女王をリュヘル道士に預けて他国に逃がせ」というものだった。
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