④リアド・トラクス心臓 ②

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 肝心のリュヘル道士(クライエン)ノーザンムーク(冬の離宮)に姿を現さず、そしてハンベルト少佐の読みはすこしずつずれ、今では大きく破綻してしまっていて使命を全うするのは不可能だった。  皇太子を王として立て、大公フィッツジェラルド殿下を廃位する。 女王アルテミアは療養のために幽閉され、ダステレミア王国はバレッサ地熱発電所の権利を完全に国内に向けて取り戻し、国の復興に電力その他の資源を全て投入する。 さらに、国民の権利を強くし議会の発言権を獲得する。  自らの手で、自由国家を。  そのスローガンは、これまでのレジスタンスの活動とともに浸透し、機は熟していた。 いまこそ、古い貴族政治を一掃し、国家の方針を定めるのに国民すべての意見を尊重できる国家を樹立する。  政治と宗教の分離。 貴族という身分の撤廃。近衛兵団が中心となった組織の掲げるスローガンは隙間無く人々の心を一つにしたが、異形者(アウトヘイジ)の待遇については保留のままだった。  大公フィッツジェラルドの異形者狩りの方針がある程度進み、蜂起の時までに。 そう考えていたのも事実だろう。  異形者(アウトヘイジ)を殲滅などできはしない。 かれらは敵では無く、つい今しがたまで、隣の席で談笑していた友人や家族なのだ。  そして、いつ何どき、自分自身が変貌(シーレント)するか分からないのだから。 その存在を否定してしまえば、自分の未来を失うことにもなりかねないのだ。
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