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その時、ぽおお……と列車の汽笛が聞こえてきた。
女王アルテミアがリアド・トラクスの証人喚問に呼び出されたのだ。
近衛兵団は数名の護衛をつけることを条件に女王を受け渡した。
ここまでは予定通りだ。
シエレンは、最後に娘と息子に会えて、女王が少しでも心を安らかにしてくれたらと願っていた自分が、いかに甘かったかと忸怩たる思いでいる。
かえって、二人の子供を傷つける結果になってしまったではないか。
ユディアの燃えるような艶やかな赤い髪が、日の光に輝き、幼さの残る横顔が戸惑い、揺れていたのを思い出し胸の奥が締め付けられた。
また、笑顔で再会できる日が来ることを祈るしかない。
テントの外から車が次々と到着する音がする。
カエキリア近衛兵団長がせかせかとした足どりで近づいてきた。
「シエレン、車の用意ができた。皇太子イリナス殿下を冬の離宮の王座にお連れする。主立った賛同者は皆、集結した」
シエレンは名残惜しそうにイリナスの前髪を、そっと指で撫でると、スリングから抱き起こして、カエキリア卿に渡した。
カエキリア卿は慣れた手つきでイリナスを抱きかかえ、シエレンを振り返る。
「護衛として着いてきてくれ。イリナス皇太子はお前に懐いている。そばにいれば安心なさるだろう」
「かしこまりました」
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