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後ろについて歩きながら、テントの外に出ると、近衛兵が整列し、熱い視線をカエキリア卿に向けている。車に乗り込むまでの間、皆が吐き出す息が白く曇り、周囲がかすむほどだった。
ひとつの王朝の転換期は幾たびも訪れるだろう。
その瞬間に立ち会う機会は生涯のうちそうあるものでは無いはず。
イリナス皇太子がぎゅっと抱きしめたままの、古靴下で作ったウサギのぬいぐるみの耳が、ぷらぷらと揺れているのをずっと見つめていた。
その時、うおおおん……と、獣の遠吠えが広場に響いた。
何事かと、近衛兵達が身構える。
「騒ぐでない。斥候兵、様子を見てくるのだ」
指示に従い、数名がその場から離れ、カエキリア卿はイリナス皇太子を抱いたまま車に乗り込んだ。その車の助手席に乗り込んだシエレンは、空を見上げた。
黒い翼を持つ、優雅な生き物が天高く旋回しているのが妙にくっきりと、暗い空を背景に鮮やかに見えるのだった。
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