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【5】クリカ・ジェプリカ《終焉の戯曲》
①
首都ミュリスの街中でも崩れずにすんだ建物は大変目立っている。
その威風堂々としたたたずまいは、かつては白い真珠と称えられた街を懐古する人々の心のよりどころになっていた。
国立総合大学の講堂は、三百年前に建造された歴史ある建物で、有名な芸術家が設計した事でも知られている。
そのために爆撃対象から外されたのだと噂されていた。
【奇跡の歌姫ミステス・フランクリン女史コンサート 全国女子学生ボランティア協会協賛】
手作りらしい素朴な看板を目指して、多くの紳士淑女がチケットを手に会場を訪れていた。
皆、戦争中には着ることができなかった正装で着飾っているのだが、コートを脱ぐときに少なからず、マダムたちは胸元のさみしさにため息をついた。
本来ならそこには豪華なダイヤモンドやルビーのネックレスが輝き、イヤリングと指輪、貴族なら頭にティアラを飾るのがマナーだった。
だが、戦争中に個人資産を強引に徴収した大公フィッツジェラルドの政策は徹底的に、宝石などから絵画まで奪っていった。
淑女が宝石で身を飾るのは男性の社会的地位を示し、美しいマダムをエスコートすることでホワイトタイの紳士を引き立てるのだ。
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