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その瞬間にカメラマンがシャッターを切る。
「オステガル卿?リアド・トラクス連合の中で一番大きな力を持っている、カテキナ国の……」
彼が肩を抱いていた少女が、感嘆の声を上げる。
「あなたの声明文を読みました。ダステレミア王国は王政を廃止すべきで、宗教などは文化としても役に立たないのだと……強い力を感じてどんな方なんだろうかって夢見ていたのです。新しい時代はこの手で掴まなくてはならないって。友人達と興奮して一晩中語り合いました」
少女の濃い色の瞳が熱っぽく潤むのを見て、オステガル卿は彼女の肩を抱く指先をゆるゆると動かした。
華奢な肩から背中に指を這わせて、耳元でささやく。
「わたしはホテル・ラ・クリエルの特別室に宿泊している。もっと政治に興味があるのならコンサートの後で訪ねてきなさい」
「え……そんな。男性が一人で泊まっていらっしゃる部屋に行くなんて……」
「あはは、心配しなくてもいい。わたしの部屋は執務室のようなものでね。女性秘書もいるし、記者達が始終出入りするからまるでロビーみたいな有様だよ」
その言葉を聞いて、女子学生がほっとしたように頷いた。
「必ずお伺いします。憧れのオステガル卿とお話しできるチャンスを逃したく無いんです。わたしはシャレットといいます」
「ほう。太陽神ラームの娘で音楽の女神だね。君にぴったりの美しい名前だ」
ブザーが鳴り、オステガル卿の秘書が呼びに来た。
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