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腰の辺りまで覆われた義足。銀色に光るサンダルを履いてはいるが、一歩進むごとに体が大きく傾ぐ。
エマウはダンサーのように、ぐっと足を高く上げて、憲兵の肩に優雅に腕をかけながら内ももから細身の杖を引き抜いた。
憲兵はエマウの優雅な足や、豊満な胸元に目を奪われながらも職務は思い出したらしかった。
「杖などは武器となりうるので持ち込めません」
「そう。では、あなたがわたしをエスコートしてくださる?今夜は残念なことにわたしはひとりぼっちなの。こんな寂しい女を支えてくれる頼もしい殿方がいてくださったらって思っていたのよ」
微笑まれ、視線を受け止めかねて憲兵が咳払いした。
「……杖を持っておられても問題はございません。マダム、お席まで案内いたしましょう」
「嬉しいわ。あなたのお名前を教えてくださる……?」
そんな事を話しながら、エマウは憲兵をまんまとこの場から引き離した。
「エマウのハニートラップにかかったら、どんな男もコロッとだまされるのよね」
シャレットのつぶやきに、くくくっとシガレットコーナーにいた、バーテンの男が笑いを漏らした。がっちりした体をタキシードで包み、隙の無い動きをしている。
「カテル、何を笑ってるのよ」
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