【5】クリカ・ジェプリカ《終焉の戯曲》

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 振り返ったジェフリの視線は、吹きすさぶ風をものともせず、空中に留まった黒い翼のシルエットを捕らえた。 「リュヘル道士(クライエン)……」  腕の痺れは痛みになり、ジェフリは呻きながら女王の胸から爪を引き抜くと床に膝を突いて、リュヘル道士(クライエン)の姿を見上げた。  翼竜人(プトラリオス)。  第二人類進化項属(ストレンジクス)によって眠っていた能力を呼び覚まし、神の創造した姿を変貌させた……悪魔の所業と恐れられ嫌悪される姿。  空を自在に飛ぶ翼竜人(プトラリオス)の翼は薄い皮膜に覆われ、推進力を生み出す腱がまるで別の生き物のようにうごめく。 風を受け上昇する翼を持つ男は長い前髪をうっとおしげに掻き上げ、ジェフリを見下ろした。  美しい肢体にジェフリは目を奪われていた。  醜悪な人体変化であるはずが。  神の創造物のような美しさを持つ悪魔の化身。  ふわりと空中で反転した翼から鋭い軌跡で羽が矢となり飛び出す。  女王の匂いを嗅ぎつけた吸血鬼たちに、羽が刺さり、硬直した彼らは海に転落していく。  きいきいと嫌な鳴声を立てていた吸血鬼が、一斉に赤く光る目を一点に向けた。 銀色の月が浮かび……淡い光を浴びた異形者(アウトヘイジ)が翼を広げて辺りを睥睨している。
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