【5】クリカ・ジェプリカ《終焉の戯曲》

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「……俺が魔の手(ヴェセルバース)を遣って女王の命を奪おうとすれば、リュヘル道士(クライエン)が姿を見せると思ったんですよ」  ジェフリの言葉を聞いてリュヘル道士(クライエン)は形の良い眉をくいっと高く上げた。 その、いつも通りの表情を見て、ジェフリは半ば呆れ、そして安心している自分に気がついて苦笑した。 「何がおかしいのだ」 「いいえ。あなたはいつも違う顔を見せるから、どれが本物なのだろうかって思っただけですよ」 「そんな事を考えていたのか。全く無駄な考察だ……私は複合型(ディレクトリ)なのだ。様々な形態を持っている。共通項など存在しない」 「だから吸血鬼を従える事もできるんですか?」 「そう……吸血鬼を手下にできるのはマグラファイ(カササギの翼)……ミステスだけだ」  リュヘルの黒い翼が、光に包まれたように見えた。  するりと脱皮するように白い羽がびっしりと現れ、黒い皮膜の翼から白い翼に変貌(シーレント)した。  ぴたりと、ミステスの歌声が止まる。  ぼたぼたと海に落下してく吸血鬼の体から、嫌なにおいがする油が滴り、海面が油膜で覆われていた。
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