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「女王の命をどうして奪わなかったのだ」
リュヘルは問いかけながら、ジェフリの頭を撫でた。
その心地よい力強さに、ジェフリは喉の奥がぐっと詰まったようになった。
「アルテミア陛下は凶暴化もしていないし、吸血鬼に変貌もしていないから……殺す必要は無い。ユディア王女もそうだ。彼女からは甘い匂いはしたけれど、それは吸血鬼に襲われたからじゃ無い。女王の持つ気配そのものなんだ。リュヘル道士はその事に気づいていたのでしょう?だから俺の王殺しの大罪を止めようとして来てくれた」
「そこまで分かっていながら、何故逃げなかった」
「もういちど、リュヘル道士に会いたかったんです」
そうか、と、呟くとリュヘルは立ち上がり。
ぐっと体を沈めると重力を無視した跳躍で空に飛び上がり、そのまま翼を広げて羽ばたいた。
白い翼を持つ、二体の異形者が、銀色の月を背景に激しくぶつかり合うのを、ジェフリは何か美しい物語の一節を読んでいるような気持ちで、見守った。
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