168人が本棚に入れています
本棚に追加
ひょろりと生育の悪い葉が伸びているだけだったのが、今日は違った。
ふっくらとつぼみが先端にふくらみ、黄色い花びらがゆるやかに口先を開いていた。
世話をしていたのだから、花が咲くと嬉しい。
ジェフリは顔を近づけた。
ふわりと薫りが漂う。その匂いを嗅いでジェフリは顔をしかめた。
この匂いに覚えがある。
そう思いながらさらに顔を近づけると、黒い小さな蜘蛛が花びらにすがりついていた。
蜘蛛の手足はぶるぶると震え、よく見ると三つの鉢、全部に蜘蛛が這い上がってきている。
指先で弾いてしまおうかと手を伸ばしかけて、その匂いの記憶が蘇った。
そして、この蜘蛛がグローリス嬢の肩に留まっていたのも同時に思い出した。
手に持っていたじょうろから水が滴る。
慌てて持ち直し、蜘蛛を避けながら植木鉢に水をやると、夜明けの気配が空に広がった。
ゆるやかに夜の影を太陽の光が覆っていく。
夜明けを待ちわびる気持ちがそう感じさせるのか、太陽の出現はいつも突然で、そして揺るぎない。
天窓を見上げると、昨日、リュヘルに言いつけられて窓を磨いたおかげで、一点の曇り無く光が差し込んでくる。
光の先端で、リュヘルは目を開いていた。
「花が咲いたな」
そう言いながら胡座を解く。
立ち上がるまでに時間がかかるのは、足が痺れてしまうからだときいて驚いた。
最初のコメントを投稿しよう!