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しばらくリュヘルの賛歌を聴いていたハンベルトだったが、腕時計の時間を見て、
「この葉書が宛先不明で戻ってきたからジェフリに渡したかったのだが」
そう言いながら小さな書き物机にそっと置いたのは、バレッサ地熱発電所近くのカフェでジェフリがニコライ神父に宛てて出した絵はがきだった。
もう半年以上前の話だ。
リュヘルが葉書を手に取ると、丁寧な字でニコライ神父に宛てた近況報告が書かれている。
「この印は何だ?」
リュヘルの指先が、葉書の端を指さした。
急いで書いたと思われる筆致で、三角錐の文様……リアド・トラクスの旗印が小さく書かれていた。
「おれも気がついていた。ジェフリがそんな物を書いたとは思えないからな」
ハンベルトはポケットから折りたたんだ書類を出してリュヘルに見せた。
「不思議に思ったので調べてみた。実はジェフリが育ったアウグストス教会が炎を操る異形者に襲われて全焼したらしい。養護施設にも修道院にも、生存者はいないようだ」
リュヘルは静かなまなざしで書類を一読すると、小さな笑みを浮かべた。
「何がおかしい」
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