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【 竜の棲む時計塔 】プロローグ 竜人と翼竜人
プロローグ:竜人と翼竜人;
爪に鈍痛が走った。ジェフリ正木は一張羅のツィードジャケットを着てきたことを激しく後悔していた。
先週…十六才になった彼は児童養護施設から巣立たなくてはならず、このジャケットは施設長のニコライ神父からの餞別で、おそらくニコライ神父が若い頃着ていた服なのだろう。肩の辺りはもたつき、袖は擦りきれているが…世界大戦で疲弊した国家は復興途中であり、女王アルテミニアも食事を二食に減らして国民と共に苦難を乗り越える試練に耐えていると、今朝の新聞で読んだ。
ジェフリは背後を振り返り、追っ手の姿をとらえた。
四つ足の獣。
アメリカバイソン程の巨体だ。赤く光る瞳はひどく冷静で、ジエフリをその牙で引き裂くまで追跡をやめないだろう。
獣にあるまじき知性を全身から漂わせる。
目的はただひとつ。
腹が空いているから人を喰らう。知性と本能のせめぎ合いが巨体に対して小さな瞳にちらちらと動き回っていた。
「人狼か…こんな街中にまだうろついてるなんて信じられないよ……」
ジェフリは額の汗を拭って大きく息を整えた。
また、爪が鈍く痛み歯を食い縛る。
骨を抉り表に出ようとする本性を見つめた。
夜の闇でも黒く太い爪が指の第二関節の辺りを突き破り盛り上がるのが見えた。
体を快感が突き抜ける。
脆弱な少年の肉体を突き破り、強い獣の力がみなぎる。
ギュッと手を握りしめ、その力加減にジェフリは笑みを浮かべた。
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