冬の日時計③

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冬の日時計③

第1章 冬の日時計(ノースタトゥ)③  首都ミュリスは復興の途中だ。  道路はあちこちが陥没し、水道管が破裂し電線などは垂れ下がったまま放置されている。  郊外のアウグストス教会で育ったジェフリにとって生れて始めて見る都会は、戦争の爪痕がなければさぞかし立派だっただろうという印象を与えた。  しかし、郊外の街も似たり寄ったりで、この国は今から立ち直らなければならないのだった。  肉体労働者達が道路を修繕し、がれきを集める。都市復興のために女王アルテミアは戦争前の町並みを再現すると宣言していた。  新しく作り替えるのではなく、ダステレミア王国の旧都市を再び世界に知らしめると……それは国民達の意見を二分した。  がれきの山は人々に悲惨だった時代を思い出させる。一刻も早く視界から遠ざけ新時代を実感したくても当然だろう。  だが、女王アルテミアは議会でも貴族達からの要望にも一切耳を傾けず、主張を曲げなかった。  新しい街に作り替えるのではなくダステレミア王国が平和だった時代に戻す(リセット)……その考えは国民に『女王はほんとうの意味で戦争の苦難を味わっていない』と思わせた。  戦争に行っていた人々が帰ってきたものの農村は人手不足で生産が追いついていない。  都会から働きに出る者も多かったが、農民達は彼らを役立たずの怠け者と言い、こき使っている。  互いの生活習慣が異なるのだから考え方が違って当然だとはいえ……今回の戦争では農村部も飛行機からの爆撃によって壊滅状態だったから、ため池や水路の整備から始めなくてはならないのだった。  都会で頭脳労働に従事していた者は農村での過酷な労働に耐えかね、また都会に舞い戻ってくる。
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